(あらすじ)
ジェイスが街中に眠る謎の暗号の研究に取り付かれていた頃、ラル=ザレックとイゼットの一団は地下のゴルガリの支配圏にもぐり込み、何かを発見した。
ここで視点はジェイスに戻ります。
突如、ジェイスの家のドアを叩く音が聞こえてくるが・・・。
(以下、本文の訳です。)
ジェイスは忍び寄るように1階まで階段を下りドアへと近づいた。カヴィンならばノックはしないし、他に訪れるような人など考え付かない。彼は外にいる何者かの精神を読み取るための呪文を用意した。古い友人の精神を感知すると、彼はドアを大きく開けた。
イマーラは以前と変わらず若さを保っているが、彼女はエルフであるため、年齢は外見に表れにくい。彼女が着ているガウンの袖には茨模様が編みこまれ、袖口の大木の根をあらわす立派な茶色の縫込みに絡み付いていた。彼女の若々しい姿の中に知性と静かな強さが秘められていることをジェイスは知っていた。
「こんばんは。」彼女は笑みを作りつつ言った。
「イマーラ!久しぶりじゃないか。さあ入ってよ。」
そう言ってすぐに彼は後悔した。ジェイスの書斎は来客に見せられるものではなかった。彼女が入るとすぐに、彼は申し訳なさそうに研究で集めた石片の山の中を案内する羽目になったのだ。石細工の欠片をいくらか脇にどけてから、古くて使われていない暖炉のそばの擦り切れたカーペットが敷かれた床に座った。
イマーラはその場所を観察した。「考古学でも始めたのですか?」
「新しいプロジェクト、といったところかな。仲間と僕は古い石造りに刻み込まれた文様を調査しているんだ。この地区のありとあらゆる場所で同じ模様を見た。そいつらは繰り返される要素を持った一連の図形のパターンになっている。興味深いよ。この通りのほとんど全ての建物が同じ廃棄所から回収した石を使っているって知っていたかい?」
「知りませんでした。」彼女の表情は落ち着いていた、しかし彼女が手をひざの上で握るしぐさから、ジェイスはそれが社交辞令ではないと分かった。
「どうしてオヴィツィアから?」
「私は今、この第十地区に住んでいます、」イマーラが言った。彼女は小さな何かを大事そうに握り締めてジェイスに渡す――葉脈まで複雑に描かれた木彫りの葉のブローチだった。それは熟達した職人が彫ったとしてもあまりにも精巧すぎた。魔法によって練成されたものに違いない。
「これは?」
「贈り物です。我がギルドマスターからの。」
ジェイスはその繊細な木彫りの葉っぱを両手で受け取った。「ギルドマスターだって?」ジェイスは彼女の肩に留められている小さな木の形をしたピンを眺めた。「ギルドに入ったのか?」
「私は帰ってきたのです。セレズニア議事会に。私は何年も前から所属していました――それもあなたが生まれる前からですよ、人の子よ。そして議事会が再び立ち上がった今、私を呼び戻したのです。あなたはギルドがいかに前の姿を取り戻したか、ご覧になるべきです。」
「正直に言うと、僕はここ最近この建物の外すらもまともに見ていないよ、」ジェイスは肩をすくめて言った。彼は自分の髪の毛があらゆる方向に跳ね上がっているのに気付き、イマーラが訪ねてきたことで、彼の身だしなみの基準は大幅に上昇した。
イマーラはしっかりとジェイスを注視した。「あなたはギルドパクトについてどれだけ知っていますか?」
それは極めて答え方に困る類の質問だった。ジェイスはイマーラに対し完全に正直ではなかった――ジェイスはプレインズウォーカー、次元の間を行き来することが出来る魔道士だ。殆どの人は自分たちが暮らしている所の他にも次元があるなど考え付かないし、自分たちの故郷がいくつにも連なる世界の一つでしかないなんて聞いても良い思いはしないだろう。
ジェイスは自分がプレインズウォーカーであることを隠すようにしてきた。そのため、このような会話の中でも、ジェイスはその次元で生まれ育った人であるかのようにちょっとした演技をしなければならなかった。彼は都市に覆われた世界、ラヴニカの歴史を、自ら調査し人々の心を覗き込んで得た知識でしか知らなかった。
彼はイマーラの頭の中を覗いてギルドパクトのことをもっと調べてみようかとも考えた。彼の魔法の特技は近道だが、必ずしも必要なものではない。しかし、イマーラ自身が卓越した魔道士であり、ジェイスが周りで精神魔法を使うと彼女はそれを感じ取ることが出来る。
「僕は政治のことはあまり分からないよ、」彼は言った。
「ギルドが復興したとしても驚くことではありません。」イマーラが言った。「ギルドは歴史の柱のようなもの。何千年ものあいだ、我々の文明全ての中心で、誰が何を言おうと、ギルドパクトがそれらを一つに繋いでいました。ですが、ギルドパクトは無くなりました。解消されたのです。条約や法律は何の魔法的な拘束力を持ちえません。ギルドの指導者たちはもはやかつての規制に縛られてはいないのです。」
ジェイスは力を追い求めていた人々に思いを馳せた――リリアナ、テゼレット、ニコル=ボーラス。彼らがいつでも自分たちの力をより大きな力を得るために利用してきたのを思い出した。「権力の中心にいる連中は、いつでもそれがどこまで届くのかを試したがる。」
イマーラが頷いた。「そしてその境界が無ければ・・・」
「そいつらが自分たちのあるべき領域を踏み越えようとしているんだね。」
イマーラは、ジェイスの手にあるもろい木の細工をみた。「もう動き出しています。」
「誰だ?ラクドス?」ジェイスは当てずっぽうに言った。彼にはなぜラヴニカの人々が、あの殺人すら厭わない悪魔崇拝者のカルト集団を十個の公式なギルドの一つとして認めているのか理解できなかった――やつらは危険なだけに見えた。通説では、ラクドス教団は富と権力を持つ者に人気の破壊的なサービスと歪んだエンターテインメントを提供しており、彼らが存在を保つにはそれだけで充分だった。
「いいえ。」イマーラが言った。「イゼットです。イゼットの魔道士たちが他のギルドの領域違法な調査を始めたのです。」イゼット団――ジェイスが暗号の刻まれた石のアーティファクトを掘り返していた時に、よく姿を見た魔法研究員たちと同じギルドだった。
「しかし、それは法魔道士たちの仕事じゃないのか?アゾリウスが境界を維持するべきでは?」
「彼らはそうしようとしています。アゾリウス評議会は他のギルドの要請に応じて毎日のようにイゼット団に対して禁止命令や規則を作り続けています。しかしギルドパクト無くしては、アゾリウスはただの牙を失った官僚です。彼らの法制度はただの紙に書かれた文字に過ぎません。ニヴ=ミゼットはまるで気にしていないようです。」
ニヴ=ミゼットはイゼット団の創設者にしてギルドマスターであり、探究心旺盛で理知的な大魔道士で、また古代のドラゴンでもある。もしもイゼット団が新たな計画を企てていたと言うのなら、彼がその出所のはずだ。
「そのドラゴンは何と言っていた?」
「何も。イゼット団が何を行っているのか、彼らは秘密にしているのです。」
「そして君は彼らのプロジェクトが何なのかを調べたいのか。」君は僕にそれを見つけて欲しいのか、と彼は考えた。
「トロスターニ、我がギルドマスターは、イゼットが計画していることを早急に明るみに出さなければならないと考えておられます。しかし、もし彼らが協力をしなければ、ギルドの間に不信が広まるでしょう。緊張が生まれます。ギルドをバラバラにする紛争を引き起こすかもしれません。」彼女は両手を広げ、再び握った。「イゼットには協力してもらわなければ。」
ジェイスは深く座って息を整え、イマーラの顔を観察した。彼女はジェイスに対し強く要求しないようにしていたが、彼女の表情からは差し迫っていることが伺えた。そこには彼女からは今まで見たことが無い、彼女のマナーの限界があった。恐怖ではなかった。彼女は自分自身が危険に遭うことは何とも思っていなかった。彼女が義務感を持って語っているのを感じた――ギルドへの忠誠心を超えて何かを案じている。彼は彼女が他の誰かを守ろうとしているのではと考えた。
「僕に何が出来る?」
彼女に輝くような笑顔が生まれた。「我々に加わってください、」彼女は言った。「助けてください。この地区と、全ての地区の平和を守るために、イゼットが何をしようとしているのかを知りたいのです。」
「僕に、君たちのギルドに入ってほしいと言うのか?」
「議事会はあなたを歓迎するでしょう。セレズニアは我々が共存するために一つになることだと信じています。ジェイスあなたの素質――あなたは人と繋がることができるすばらしい能力を秘めています。我々ならあなたを上手く使えるでしょう。」
「僕には分からない。」一つのギルドに加わることは彼自身を一つの価値観に縛り付けることを意味する。何より、それは彼自身をラヴニカの次元へと拘束することになる。そして仮にラヴニカのギルドの一つを“選んだ”としても、それがセレズニアになるかとは確信できない。ジェイスは書斎を見回し、曖昧なジェスチャーで研究材料を示した。「僕にはやるべき事がたくさんあるんだ・・・今はギルドに加わるとは約束できない。」
「ですが、あなたなら多くの人々を救うことが出来ます。私はギルドの中で影響力を持っています。トロスターニは私を高官のようなものに選んだのです。そしてあなたには人々と絆を持つ天性を持っています。我々は同じ目標に向かって働くことが出来ます。私たちは真実を学ぶことが出来ます。共に。」
ジェイスは躊躇した。この時のイマーラのようにジェイスの事を好意的に見る人はこれまで多くなかった。彼は彼女がそのような見方をもっと長く続けてくれるような何かを言いたかった。彼は、イエスと答えて彼女の顔がもっと明るい笑顔になるのを想像した――彼女の手を取り、君の仲間になって君を助けるのが僕には何よりも大切なことだよと、言ってやれたなら。彼女のためにそうできたらと願った。
しかし、彼は出来なかった。
「すまない。僕はセレズニアには入ることは出来ない。でも、別のやり方で助けることなら出来る。」
イマーラの笑顔が溶けて消えた。「あぁ。では遅かったのですね。もう他のギルドに入ったのですか?」
「いや、そうじゃない。」彼は他の次元で過ごした日々を思い出した。多元宇宙の隅々に広がる彼を惹きつけてきた謎の数々に思いを巡らした。「僕は、その・・・あんまり他と繋がりすぎるのは好きじゃないんだ。」
その言葉が彼女に響いた。「分かりました。」彼女は言って立ち上がった。彼女は元の上品で礼儀正しい立振舞いに戻った。「では、私は行かなければなりません。ギルドの仕事がありますので。お時間を頂いて有難うございます。会えて良かった。」
「いや、イマーラ、ごめん、」彼は一緒に立ち上がって言った。「僕はただ・・・どのギルドの政治にも関わる余裕が無いという意味で。大事なことを調べていて、時間がいくらあっても足りない。これが解決できたら、ぜひ君を助けるよ。」
彼女は頷いた。「あなたを心待ちにしていますよ。」彼女は言った。ジェイスの家のドアで、彼女は振り返った。「あなたにあげたあの葉は、樹彫師が作ったセレズニアのアーティファクトです。あなたが望むなら、私と連絡を取るのに使うことが出来ます。ただ起動の合言葉を唱えるだけで、私はあなたの声を聞くことが出来るようになります。」
ジェイスは手の中の贈り物を見た。「その言葉とは?」
「『君が必要だ。』」
(解説)
イマーラ=タンドリス:セレズニアの高官で、ジェイスの女友達。かつてテゼレット支配下の無限連合にジェイスがいた頃、ジェイスは彼女の癒しの術で何度も命を救われています。
今回のイマーラとの会話、言葉の節々から本気でジーンと来るものがあります。
プレインズウォーカーである以前、子どもの頃から人の心を読む超能力を持っていたジェイスは、自分が他の誰とも決定的に違う存在。本質的に他の誰とも分かり合えない。
だけど、その死ぬまで続くような孤独感を受け入れきれない。
他のみんなと同じように笑ってだべりたい、けれどそれが出来ないもどかしさ。
ぼっちを経験したことがある人なら分かるかもしれない、ジェイスの感覚が少しでも伝われば幸いです。
次回、最弱のギルドのあの男が登j・・・おや、誰か来たようだ・・・
ジェイスが街中に眠る謎の暗号の研究に取り付かれていた頃、ラル=ザレックとイゼットの一団は地下のゴルガリの支配圏にもぐり込み、何かを発見した。
ここで視点はジェイスに戻ります。
突如、ジェイスの家のドアを叩く音が聞こえてくるが・・・。
(以下、本文の訳です。)
ジェイスは忍び寄るように1階まで階段を下りドアへと近づいた。カヴィンならばノックはしないし、他に訪れるような人など考え付かない。彼は外にいる何者かの精神を読み取るための呪文を用意した。古い友人の精神を感知すると、彼はドアを大きく開けた。
イマーラは以前と変わらず若さを保っているが、彼女はエルフであるため、年齢は外見に表れにくい。彼女が着ているガウンの袖には茨模様が編みこまれ、袖口の大木の根をあらわす立派な茶色の縫込みに絡み付いていた。彼女の若々しい姿の中に知性と静かな強さが秘められていることをジェイスは知っていた。
「こんばんは。」彼女は笑みを作りつつ言った。
「イマーラ!久しぶりじゃないか。さあ入ってよ。」
そう言ってすぐに彼は後悔した。ジェイスの書斎は来客に見せられるものではなかった。彼女が入るとすぐに、彼は申し訳なさそうに研究で集めた石片の山の中を案内する羽目になったのだ。石細工の欠片をいくらか脇にどけてから、古くて使われていない暖炉のそばの擦り切れたカーペットが敷かれた床に座った。
イマーラはその場所を観察した。「考古学でも始めたのですか?」
「新しいプロジェクト、といったところかな。仲間と僕は古い石造りに刻み込まれた文様を調査しているんだ。この地区のありとあらゆる場所で同じ模様を見た。そいつらは繰り返される要素を持った一連の図形のパターンになっている。興味深いよ。この通りのほとんど全ての建物が同じ廃棄所から回収した石を使っているって知っていたかい?」
「知りませんでした。」彼女の表情は落ち着いていた、しかし彼女が手をひざの上で握るしぐさから、ジェイスはそれが社交辞令ではないと分かった。
「どうしてオヴィツィアから?」
「私は今、この第十地区に住んでいます、」イマーラが言った。彼女は小さな何かを大事そうに握り締めてジェイスに渡す――葉脈まで複雑に描かれた木彫りの葉のブローチだった。それは熟達した職人が彫ったとしてもあまりにも精巧すぎた。魔法によって練成されたものに違いない。
「これは?」
「贈り物です。我がギルドマスターからの。」
ジェイスはその繊細な木彫りの葉っぱを両手で受け取った。「ギルドマスターだって?」ジェイスは彼女の肩に留められている小さな木の形をしたピンを眺めた。「ギルドに入ったのか?」
「私は帰ってきたのです。セレズニア議事会に。私は何年も前から所属していました――それもあなたが生まれる前からですよ、人の子よ。そして議事会が再び立ち上がった今、私を呼び戻したのです。あなたはギルドがいかに前の姿を取り戻したか、ご覧になるべきです。」
「正直に言うと、僕はここ最近この建物の外すらもまともに見ていないよ、」ジェイスは肩をすくめて言った。彼は自分の髪の毛があらゆる方向に跳ね上がっているのに気付き、イマーラが訪ねてきたことで、彼の身だしなみの基準は大幅に上昇した。
イマーラはしっかりとジェイスを注視した。「あなたはギルドパクトについてどれだけ知っていますか?」
それは極めて答え方に困る類の質問だった。ジェイスはイマーラに対し完全に正直ではなかった――ジェイスはプレインズウォーカー、次元の間を行き来することが出来る魔道士だ。殆どの人は自分たちが暮らしている所の他にも次元があるなど考え付かないし、自分たちの故郷がいくつにも連なる世界の一つでしかないなんて聞いても良い思いはしないだろう。
ジェイスは自分がプレインズウォーカーであることを隠すようにしてきた。そのため、このような会話の中でも、ジェイスはその次元で生まれ育った人であるかのようにちょっとした演技をしなければならなかった。彼は都市に覆われた世界、ラヴニカの歴史を、自ら調査し人々の心を覗き込んで得た知識でしか知らなかった。
彼はイマーラの頭の中を覗いてギルドパクトのことをもっと調べてみようかとも考えた。彼の魔法の特技は近道だが、必ずしも必要なものではない。しかし、イマーラ自身が卓越した魔道士であり、ジェイスが周りで精神魔法を使うと彼女はそれを感じ取ることが出来る。
「僕は政治のことはあまり分からないよ、」彼は言った。
「ギルドが復興したとしても驚くことではありません。」イマーラが言った。「ギルドは歴史の柱のようなもの。何千年ものあいだ、我々の文明全ての中心で、誰が何を言おうと、ギルドパクトがそれらを一つに繋いでいました。ですが、ギルドパクトは無くなりました。解消されたのです。条約や法律は何の魔法的な拘束力を持ちえません。ギルドの指導者たちはもはやかつての規制に縛られてはいないのです。」
ジェイスは力を追い求めていた人々に思いを馳せた――リリアナ、テゼレット、ニコル=ボーラス。彼らがいつでも自分たちの力をより大きな力を得るために利用してきたのを思い出した。「権力の中心にいる連中は、いつでもそれがどこまで届くのかを試したがる。」
イマーラが頷いた。「そしてその境界が無ければ・・・」
「そいつらが自分たちのあるべき領域を踏み越えようとしているんだね。」
イマーラは、ジェイスの手にあるもろい木の細工をみた。「もう動き出しています。」
「誰だ?ラクドス?」ジェイスは当てずっぽうに言った。彼にはなぜラヴニカの人々が、あの殺人すら厭わない悪魔崇拝者のカルト集団を十個の公式なギルドの一つとして認めているのか理解できなかった――やつらは危険なだけに見えた。通説では、ラクドス教団は富と権力を持つ者に人気の破壊的なサービスと歪んだエンターテインメントを提供しており、彼らが存在を保つにはそれだけで充分だった。
「いいえ。」イマーラが言った。「イゼットです。イゼットの魔道士たちが他のギルドの領域違法な調査を始めたのです。」イゼット団――ジェイスが暗号の刻まれた石のアーティファクトを掘り返していた時に、よく姿を見た魔法研究員たちと同じギルドだった。
「しかし、それは法魔道士たちの仕事じゃないのか?アゾリウスが境界を維持するべきでは?」
「彼らはそうしようとしています。アゾリウス評議会は他のギルドの要請に応じて毎日のようにイゼット団に対して禁止命令や規則を作り続けています。しかしギルドパクト無くしては、アゾリウスはただの牙を失った官僚です。彼らの法制度はただの紙に書かれた文字に過ぎません。ニヴ=ミゼットはまるで気にしていないようです。」
ニヴ=ミゼットはイゼット団の創設者にしてギルドマスターであり、探究心旺盛で理知的な大魔道士で、また古代のドラゴンでもある。もしもイゼット団が新たな計画を企てていたと言うのなら、彼がその出所のはずだ。
「そのドラゴンは何と言っていた?」
「何も。イゼット団が何を行っているのか、彼らは秘密にしているのです。」
「そして君は彼らのプロジェクトが何なのかを調べたいのか。」君は僕にそれを見つけて欲しいのか、と彼は考えた。
「トロスターニ、我がギルドマスターは、イゼットが計画していることを早急に明るみに出さなければならないと考えておられます。しかし、もし彼らが協力をしなければ、ギルドの間に不信が広まるでしょう。緊張が生まれます。ギルドをバラバラにする紛争を引き起こすかもしれません。」彼女は両手を広げ、再び握った。「イゼットには協力してもらわなければ。」
ジェイスは深く座って息を整え、イマーラの顔を観察した。彼女はジェイスに対し強く要求しないようにしていたが、彼女の表情からは差し迫っていることが伺えた。そこには彼女からは今まで見たことが無い、彼女のマナーの限界があった。恐怖ではなかった。彼女は自分自身が危険に遭うことは何とも思っていなかった。彼女が義務感を持って語っているのを感じた――ギルドへの忠誠心を超えて何かを案じている。彼は彼女が他の誰かを守ろうとしているのではと考えた。
「僕に何が出来る?」
彼女に輝くような笑顔が生まれた。「我々に加わってください、」彼女は言った。「助けてください。この地区と、全ての地区の平和を守るために、イゼットが何をしようとしているのかを知りたいのです。」
「僕に、君たちのギルドに入ってほしいと言うのか?」
「議事会はあなたを歓迎するでしょう。セレズニアは我々が共存するために一つになることだと信じています。ジェイスあなたの素質――あなたは人と繋がることができるすばらしい能力を秘めています。我々ならあなたを上手く使えるでしょう。」
「僕には分からない。」一つのギルドに加わることは彼自身を一つの価値観に縛り付けることを意味する。何より、それは彼自身をラヴニカの次元へと拘束することになる。そして仮にラヴニカのギルドの一つを“選んだ”としても、それがセレズニアになるかとは確信できない。ジェイスは書斎を見回し、曖昧なジェスチャーで研究材料を示した。「僕にはやるべき事がたくさんあるんだ・・・今はギルドに加わるとは約束できない。」
「ですが、あなたなら多くの人々を救うことが出来ます。私はギルドの中で影響力を持っています。トロスターニは私を高官のようなものに選んだのです。そしてあなたには人々と絆を持つ天性を持っています。我々は同じ目標に向かって働くことが出来ます。私たちは真実を学ぶことが出来ます。共に。」
ジェイスは躊躇した。この時のイマーラのようにジェイスの事を好意的に見る人はこれまで多くなかった。彼は彼女がそのような見方をもっと長く続けてくれるような何かを言いたかった。彼は、イエスと答えて彼女の顔がもっと明るい笑顔になるのを想像した――彼女の手を取り、君の仲間になって君を助けるのが僕には何よりも大切なことだよと、言ってやれたなら。彼女のためにそうできたらと願った。
しかし、彼は出来なかった。
「すまない。僕はセレズニアには入ることは出来ない。でも、別のやり方で助けることなら出来る。」
イマーラの笑顔が溶けて消えた。「あぁ。では遅かったのですね。もう他のギルドに入ったのですか?」
「いや、そうじゃない。」彼は他の次元で過ごした日々を思い出した。多元宇宙の隅々に広がる彼を惹きつけてきた謎の数々に思いを巡らした。「僕は、その・・・あんまり他と繋がりすぎるのは好きじゃないんだ。」
その言葉が彼女に響いた。「分かりました。」彼女は言って立ち上がった。彼女は元の上品で礼儀正しい立振舞いに戻った。「では、私は行かなければなりません。ギルドの仕事がありますので。お時間を頂いて有難うございます。会えて良かった。」
「いや、イマーラ、ごめん、」彼は一緒に立ち上がって言った。「僕はただ・・・どのギルドの政治にも関わる余裕が無いという意味で。大事なことを調べていて、時間がいくらあっても足りない。これが解決できたら、ぜひ君を助けるよ。」
彼女は頷いた。「あなたを心待ちにしていますよ。」彼女は言った。ジェイスの家のドアで、彼女は振り返った。「あなたにあげたあの葉は、樹彫師が作ったセレズニアのアーティファクトです。あなたが望むなら、私と連絡を取るのに使うことが出来ます。ただ起動の合言葉を唱えるだけで、私はあなたの声を聞くことが出来るようになります。」
ジェイスは手の中の贈り物を見た。「その言葉とは?」
「『君が必要だ。』」
(解説)
イマーラ=タンドリス:セレズニアの高官で、ジェイスの女友達。かつてテゼレット支配下の無限連合にジェイスがいた頃、ジェイスは彼女の癒しの術で何度も命を救われています。
今回のイマーラとの会話、言葉の節々から本気でジーンと来るものがあります。
プレインズウォーカーである以前、子どもの頃から人の心を読む超能力を持っていたジェイスは、自分が他の誰とも決定的に違う存在。本質的に他の誰とも分かり合えない。
だけど、その死ぬまで続くような孤独感を受け入れきれない。
他のみんなと同じように笑ってだべりたい、けれどそれが出来ないもどかしさ。
ぼっちを経験したことがある人なら分かるかもしれない、ジェイスの感覚が少しでも伝われば幸いです。
次回、最弱のギルドのあの男が登j・・・おや、誰か来たようだ・・・
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