皆さん、新ルール新環境の準備はいかがでしょうか?
俺は今日GPTに出て0-3-2と悲惨な結果に泣きました。店大会だと勝率上がったけどGPTクラスの大会だと全然勝てません。

むしゃくしゃしたので昨日に続き、後編の抄訳です。
現在Gatecrashの小説を作成途中ですが、そちらもある程度進んできたら少しずつアップをします。
テーロスのプレビューが始まる時期までには「ドラゴンの迷路」まで終わらせたいなあ・・・。

なお、権利関係とか怪しいので、あくまで一字一句翻訳したものではありません。
管理人の独断と偏見で、ある程度はしょった翻訳となっています。そこんとこだけ注意して、どうぞ。

前半部分を読んでいない人は、↓のリンクへ。

Return to Ravnica 前編
http://djsigmavsmtg.diarynote.jp/201307062307557258/


(これまでのあらすじ)

ジェイスは相棒のカヴィンと共に、ラヴニカの第十地区に張り巡らされた謎の暗号、「暗黙の迷路」を研究していた。ついでにのめり込みすぎてニート生活を送っていた。

しかし、それはニヴ・ミゼットやラル・ザレックら、イゼット団の研究と重なっていた。迷路の果てにはラヴニカを揺るがす強大な力が眠っているという。イゼットはそれを狙っていたのだ。

ギルドの抗争に自分やカヴィン、親友のイマーラが巻き込まれる事を危惧したジェイスは、自分の研究の痕跡を抹消。さらに、カヴィンと自分自身の記憶からも、迷路の全てを消し去ろうとしていた・・・。


第四章 THE REACH OF LAW (法の手)


 ジェイスは見慣れない部屋で目を覚ました。頭がズキズキと痛み、記憶には穴が開いていた。自分がなぜ床の上に倒れていているのか理解できなかった。長い時間が過ぎた感覚がするが、その原因も思い出せなかった。
「お客様、ご無事でしょうか。」
躊躇しつつ話す男性の声が聞こえた。
 ジェイスが壁を支えにして体を起こしかけたとき、頭に鋭い痛みを感じた。反射的に手をやると、指に血がついた。男が彼を見下ろしていた。ジェイスは男の顔を思い出そうとしていた。それまで何も意識することが無かったこと、例えば顔を思い出すことに苦労するのは奇妙な感覚だった。
「まことに残念ですが・・・あなたの友人がさらわれました。」
 男はこの宿屋の主だった。
 窓から外を見ると、自分の家だったはずの建物が燃えていた。自分が家を出たときはこんな事になっていなかったはずだ。
「申し訳ありませんが、この損害は請求しなければなりません。」
 周りのベッドや椅子がひっくり返り、ナイフの跡があちこちに付いて、炎の呪文でも撃たれたように床は黒く焦げて灰が舞っていた。そしてジェイスは奇妙なコインを見つけた。普通に流通しているものではない。片面はデーモンの顔が、もう片方には「荒ぶる群集と走れ」(訳注:原文ではRUN WITH THE ROUGH CROWD)と書かれていた。
「ここで何が・・・」
「先ほど申し上げましたようにあなたのご友人、エルフの女性が連れて行かれました。」
「誰が?」
「ラクドスです。何人もの集団でした。」



 ジェイスが宿屋の部屋から降りようとすると、アゾリウスの役人に止められた。
「貴方がこの通りの向かい側に住むジェイス・ベレレンですか?」
鎧を着た背の高い女性が話しかけた。後ろには二人の騎士が階段を塞いでいた。
「人が誘拐された。友人が、ラクドスのチンピラに連れて行かれたんだ。」
「宿の者からその話は伺い、被害届が受理されました。貴方がジェイス・ベレレンですか?」
「そうだ・・・僕の家が燃えている。だけど、その話は後でしたい。どうか僕と、友人を探して欲しい。」
「私はその件の担当ではありません。法と規則に従って調査員が派遣されます。同行をお願いできますか?」
 このアゾリウスの三人は、どうやってジェイスを見つけて名前まで知っているのだろうか。三人は間違いなくジェイスを取り調べようとしていた。
「お前たちが彼女を探さないのなら、僕が行く。」
 ジェイスはアゾリウスの騎士たちを無力化させるべく魔法を放ったが、かき消された。この中に法魔道士がいて、あらかじめこの一帯で呪文を封じ込めていたのだ。
「容疑者ジェイス、ベレレン。あなたの行動は抵抗を示すものです。我々の魔法の使用が許可されました。今すぐ私たちと来るのです。これは任意ではなく義務です。」
アゾリウスの女性が魔力のルーンを構えながら言った。

 ジェイスは宿屋のホールを駆け抜け、反対側の窓から飛び降りた。斜めになった屋根を転がり落ち、茂みに落下した。
 ジェイスが転がり落ちた先には、片方の腕の先が斧になった巨大な双頭のオーガがいた。二つの頭がジェイスを見下ろす。
「お前か。」
頭の一つが言った。
「あいつだ。」
もう一つの頭が返す。しかしジェイスは付き合っている場合ではなかった。すぐにアゾリウスの騎士が追いついてきた。人数は前より増えている。
「私は第十管区のラヴィニア。ジェイス・ベレレン、あなたを大判事イスペリアと新プラーフの名の下に逮捕します。」
そしてオーガの方に告げた。
「あなたは、この場を引いて妨害しないことです。」
 このアゾリウスの騎士や法魔道士はイマーラを探してくれそうにないが、ジェイスにはもはや打つ手が無かった。自分の腕を差し出し、自首しようとした。
 そこにオーガが、二つの頭でラヴィニアに頭突きを食らわせた。ラヴィニアが気を失い、他の法魔道士や騎士がオーガを取り押さえようとするが、まるで相手にならなかった。
 この幸運をくれたオーガを助けようとも思ったが、ジェイスは考え直してオーガが暴れている間に逃げることにした。



 ジェイスは宿屋と荒れ果てた自宅を後にし、第十地区の中の暗い路地裏に入ると、壁にもたれかかって崩れ落ちた。
 自分の記憶をたどっていく。1年前のこと、数ヶ月前のことは思い出せる。だが、あの焼け落ちた建物にいた間のことや、イマーラがいなくなる瞬間に何があったかは思い出せない。
 自分の周りで人が歩いていて、自分のいるほうをちらりと見ていた。もはやこのラヴニカは、安住の地ではなくなっていた。ジェイスは人の視線という迷宮の中で追われる身となっていた。このまま他の次元に移ろうかとも考えた。プレインズウォーカーにとって、逃げることはいつでも選択できる手段だ。

 ふと、ポケットの中に何かがあるのに気が付いた。イマーラからもらった木彫りの葉だった。このアーティファクトでイマーラと連絡が出来ると言っていたが、彼女が返事できる状態なのかは分からない。
「“君が必要だ。”」
アーティファクトは燃えるように光を発し、葉脈が白い線のように輝いた後、光が消えた。
 彼女が声を聞いてくれたことを祈った。ジェイスの声が届けば、彼女を必ず助け出すと伝わるだろう。
 もう一つのポケットから、宿屋で拾ったコインを取り出した。ラクドスの印章らしきデーモンの顔。反対側に、“荒ぶる群衆と走れ”という文字が刻まれている。何かの掛け声のようなもの、あるいは人を集めるためのスローガンか。
 ジェイスは立ち上がった。突然、行くべき場所が分かった。



 ラヴィニアは新プラーフの最も高い塔、ギルドマスターの居所に向かっていた。手にはギルドマスター、イスペリアから呼び出しの書状が握り締められている。
 衛兵がドアを開けると、ラヴィニアは青いカーペットの上を進み、一礼をした。そこには、ギルドマスターにして大判事、スフィンクスのイスペリアがいた。
「あなたは容疑者の捜査から戻ってきた。しかしジェイス・ベレレンは未だ我が前にはいない。何故か?」
「彼は我々から逃れました。より多くの兵と法魔道士が必要です。」
「増員をしたところで貴方が上手くやれるとは考えられぬ。」
「我々の訴追は第三者によって阻まれました。グルールのオーガです。」
 イスペリアの唸り声が聞こえた。
「オフィサー・ラヴィニア、私が問いを発したときには、完全で最も明白な真実だけを述べるのだ。分かっているな?」
ラヴィニアは必死で、一歩も後ろに引かないよう姿勢を保った。
「はい、大判事様。」
「オフィサー・ラヴィニア、お前はベレレンの知人、イマーラ・タンドリスがあの夜に拉致されたのを把握しているか?」
「はい。」
「その者がセレズニア議事会の高官であることは?」
「それは・・・把握しておりませんでした、大判事様。」
「セレズニアの一部の者が、このエルフが姿を消したことに対し、第十管区の治安が不十分であるからだとして責任を追及しているのは?」
 ラヴィニアは抗議の言葉を捜したが、何も答えられなかった。
「ボロスはこの状況にどう対応している?」
「ボロス軍は自分たちの調査員を派遣しています。いつものように手続きを無視して、調査の主導権を求めています。」
「彼らにベレレンの捜索を任せよ。」
ラヴィニアは凍りついた。
「あなたは・・・この件をボロスに渡すのですか?彼らは事態を悪化させるだけです。力づくの捜査に終始して真実を得ることはありません。」
「だが、彼らならベレレンを見つける可能性があろう。」
ラヴィニアは平静を失っていた。
「この捜査の延長を申請します。必要な令状を揃えます。」
「お前の管轄はどこだ?」
スフィンクスが聞いた。
「第十地区の全てと、周辺地区の一部です。」
「今からお前の管轄はここの塔の管理と護衛になる。ベレレンに関連する全ての書類と証拠品をボロスの捜査官に引き渡すように。」
ラヴィニアはうなだれて、顎が鎧の胸当てまで落ちこんだ。
「私はお飾りの番兵になるというのでしょうか?」
「飾りにもなっていないように見えるが。」
スフィンクスはまばたき一つしていなかった。


5章 THE ROUGH CROWD(荒ぶる群集)


 蒸気が立ち上がる建物にジェイスはたどり着いた。過激な欲求をラクドス教団が満たすためのナイトクラブ。看板には“荒ぶる群集”と書かれている。
「交代の時間だ。」
 ジェイスを追い払おうとした門番の小柄なクリーチャーを魔法で気絶させ、中に入った。中は天井が異様に高く、鎖や旗がぶら下がっていた。インプのような生物が飛び交い、檻の中で黒いドレイクが戦って肉片が飛び散っていた。壁際では道化師の衣装を身に付けた番人らしき男が棘のついたワイヤーを持って歩いていた。
 ジェイスの周りではあらゆる姿の人々が飲み、踊り、快楽に身を委ねている。ラクドスの幹部らしき人はいなかった。彼らは狂った欲求を満たすために訪れた客だった。
 ジェイスはふすまをくぐり、奥に忍び込んだ。そこはさらに屈強な戦士や不気味なインプの巣窟だった。小部屋からは笑い声や叫び声が聞こえる。中央の空間にはプラットフォームが設置され、今は誰もいないが血の跡で黒くにじんでいた。
 ジェイスはイマーラに関する思考を持つ人がいないか、人ごみを通り過ぎながら精神の感覚を広げた。
 何かがジェイスの感覚に引っかかった。イマーラの姿は見えないが、聞き覚えのある声が跳ね返ってくるように、ジェイスの感覚に反応していた。ジェイスはその感覚を頼りに奥まで進んだ。

 入り口から最も遠い壁側のテーブルに、女が一人で座っていた。
「迷子にでもなったのかい、坊や?」
「人を探している。友人で、セレズニアにいるエルフの女性だ。何か知っているか?」
「みんな何かを求めているのさぁ。周りを見てみなよ。ここであらゆる楽しみが味わえるのさ。あんたも探すのを止めて楽しんだらどうだい?」
「そんな気分じゃない。」
「残念だねぇ。アンタ来るところを間違えているよ。あたし達が楽しむのを邪魔してないで、もう帰りな。」
 ジェイスはテーブルに拳を叩きつけて、イマーラの姿の像を女の精神の中で見せつけた。
「彼女を見ただろう!」
 ラクドスの女は驚いて、それは怒りに変わった。
「誰がアンタを中に入れた?」
 ジェイスは精神を読み取った。この女はイマーラを知っている。この女がラクドスのグループを率いてジェイス達のいた宿屋を襲う光景が見えた。それを察知した女が立ち上がり、杖を取った。
「坊や、深入りしすぎだよ。ここでアンタの要求が通ると思っているのかい?アンタ、私を誰だと思ってるんだい?」
 女が甲高い笑い声を上げると、クラブにいた全員が彼女の方を見た。巨体の戦士が現れてジェイスを掴み、スポットライトの中に放り投げた。

「レディース、アーンド、ジェントルメェーン!」
女が声を張り上げた。
「イクサヴァ!」
人々から歓声が起こった。
「メインステージに、ご注目ゥ~~~!」
皆がジェイスを見ていた。イクサヴァはジェイスの方に近づきながら、群衆を巧みに操っている。イクサヴァは血魔女、ラクドス教団の中でも高位の魔道士であった。
「今日の主役は、大ブレークを夢見てやってきた若い魔法使いさんだよォ!」
観客が笑った。ジェイスはブレークという表現に苛立った。(訳注:原文は“break”で、「人気が出るブレーク」と「(ここで)壊れる」をかけていると思われ。)
「さァ、お前さんたち、どうしてやろうかあぃ!?」
血魔女、イクサヴァが叫ぶと観客からさらに笑い声が飛んできた。
「ロクソドンの牙で貫いてやれ!」
「あいつに自分の足を食わせろ!」
 ジェイスはこの混沌の中、イクサヴァの持つ情報を読むために意識を集中できなかった。出口を調べたが、ジェイスは完全に囲まれていて、脱出できる道は全て塞がれていた。
「坊や、名前は?」
イクサヴァが聞いた。
「ベリムだ。」
「そうかい、“ベリムだ”君。ここではスターがどんなパフォーマンスをやるのか、お客さんが決めるのが伝統でねェ。」
「その必要は無い。」
 ジェイスは幻影の魔法で、爆発する紅蓮の炎と自分を囲むように吹き上がる煙をステージに吹き上げた。ラクドスの衛兵がジェイスのいた所を探し、足首を掴んだ。
 誰もが驚いた。掴まれて出てきたのはイクサヴァだった。これはジェイスが幻影で自分の姿をイクサヴァに変えているのだ。ジェイスは怒り狂うイクサヴァに成り済まし、イクサヴァがいたところを指差して叫んだ。
「殺せ!」
 スポットライトが向けられると、そこには青いフードのジェイスの姿に置き換えられていたイクサヴァがいた。すぐにラクドスの番人がイクサヴァを取り押さえ、一人がイクサヴァを武器で貫いた。
「あいつを逃がすなよ。」
 幻影でイクサヴァに扮したジェイスは親指でステージの方を示すと、裏口からクラブの建物を出た。

 外に出るとジェイスは元の姿に戻った。一息ついてもう一度イクサヴァの心を読むチャンスを伺おうと考えたその時、裏口が開いて怒り狂ったラクドス信者が飛び出してきた。
「どこへ行くんだぃ?」
 イクサヴァが元の姿になって出てきた。片腕で傷を抑えていた。大勢のラクドス信者がジェイスとイクサヴァを取り囲んだ。
「止めろ。僕が知りたいのは、彼女の居場所だけだ。」
 イクサヴァは狂ったような笑い声を上げた。
「坊や、教わっていないのかい?ラクドスの女に“止めろ”なんて言うんじゃないよぉ。」
 イクサヴァは指先から稲妻の爪の様な苦痛の呪文をジェイスに放った。あらゆる方向からジェイスの体を痛みが走り回る。ジェイスは両手両足でなんとか体を支えていた。
「止めるんだ・・・彼女がどこにいるのか言え。そうしたら、行ってやる。」
「駄目だねェ。“これ”を忘れて帰っちゃいけないよォ~!」
 ラクドスの魔道士は更なる苦悶の一撃をジェイスに叩きつける。ジェイスは通りに吹き飛ばされて倒れた。
 イクサヴァの呪文が終わり、ジェイスは荒い息をした。
「もういい。これでおあいこだ。」
「おあいこ?何を言ってるんだぃ?もしかしてアンタ、今までラクドスのパーティーに来たことがないだろォ?」
 イクサヴァは力を集めながらジェイスに近づいた。うつ伏せに倒れているジェイスの前で、炎のような魔力の玉をハンマーのように振り下ろしたが、ジェイスの手が上がり魔力の玉が空中で動きを止めた。ジェイスが立ち上がって拳を握り締めると、イクサヴァの苦痛の魔法が蒸発した。
 イクサヴァは弾幕のように魔法の攻撃をジェイスに浴びせた。しかしジェイスはその全てを否認の呪文で弾き飛ばす。ジェイスはイクサヴァのほうへ歩いていき、逆にイクサヴァが呪文を撃ちながら後退した。イクサヴァはダガーを投げた。予想外の物理的な攻撃はジェイスの頬をかすめるだけで終わった。
 ジェイスは精神魔法でイクサヴァに反撃した。イクサヴァの精神と一体化し、記憶の映像を見た。地底街の奥深くの部屋、ゴルガリの領地ではあるがラクドスが他のギルドとの取引に使う場所。そこでフードを被った男が、あるセレズニアの高官を連れてくるようイクサヴァを雇って依頼をした。イクサヴァはラクドスのごろつきを連れてエルフの女をさらいに宿屋に行った。ごろつきたちに、エルフの女はケガさせるなと注意していた。
 イクサヴァから情報を引き出したジェイスは精神を自分に戻すと、最後の力を搾り出し、単純だが一番遠くまで届く幻影を呼び出した。
「アゾリウス評議会の秩序と権威の下に全ての行動を停止せよ!法と規則に従いお前たちを逮捕する!」
 効果は充分だった。魔法を使って作り出した声でラクドスが混乱している間に、ジェイスは夜の中に溶け込んだ。


6章 THE PATH BELOW(地の下の道)


 イクサヴァとの衝突を通じて得た情報を頼りに、ジェイスはゴルガリの支配する地域に足を踏み入れ、地底街にもぐった。
 ジェイスは自分の姿を精神から消す魔法を身にまとい、完全に姿を消していた。ジェイスは裸になったような気がした。ジェイスの姿は見えないが、道を塞ぐように張った蜘蛛の巣を通り抜けるときは人の形に穴が開き、呼吸をすれば白い吐息が後に残った。
 ゴルガリの魔法が地底街で芽吹く胞子のように忍び寄っているのを感じた。ジェイスは苔に覆われた図書館の廃墟を歩いている。大理石の柱は菌類がこびりつき、古びた本棚は何かの巣と化していた。
 ジェイスはイクサヴァから盗んだ記憶を頼りに、途中で引き返し、あるいは迷いながらも大きな暗い部屋にたどり着いた。ジェイスは既視感を覚えた。そこはイマーラを連れて行くよう指示されていた部屋だったが、イマーラの姿は無い。ジェイスは奥に歩いた。
 ゴルガリの魔法を感じる中でも、イゼットの影響が見て取れた。ラヴニカの生活環境を維持するためのパイプが何マイルも伸びている。
 その殆どは新しいものだった。ここにもギルドの抗争を感じることが出来る。物理的に他のギルドの領域に手を加えようとしているようだ。パイプは水だけではなく、生のマナも流れていた。正確には、マナの流れに沿ってパイプが作られている。
 ジェイスは新しい部屋にたどり着いた。ゴルガリのシンボルが描かれたアーチの下にイゼットのパイプが続いていた。
 その時、死体を見た。何人ものラクドスの戦士が死んでいた。おそらく、死んでから1時間も経っていない。傷口からはまだ血が流れていて、体も全く腐敗していない。
 死体に気を取られ、ジェイスは大きなトロールが通り過ぎようとしている事に気付かなかった。



 ラル・ザレックは人が込み入った市場で巻物を見ていた。ギルドマスターからの要求がいくつも書かれているが、ドラゴンの言葉は多くの場合謎かけのようだった。ラルにとってニヴ・ミゼットは師でも手本でもなかった。むしろ邪魔者だった。ラルに視野を広げるよう求めているが、ラルはミゼットが知りえないことを知っている・・・他の次元の存在。
「失礼します、ギルド魔道士・ザレック。」
 女性の研究員が声をかけ、腕に装着しているミジウムの器具を示した。
「何を見つけた?」
「ここでマナの流れが遮られています。」
「どこに続く?下水道か?」
「いいえ、そこはスクリーグが調べました。流れが消えてしまったようです。」
ラルが顔をしかめた。
「消えるはずが無い。」
 ラルたちは見えないマナの流れを調べ続けていた。それが“暗黙の迷路”のルートを調べる手がかりであった。大通りから建物の中、地底街のトンネルまで調べたが、ここでルートが途絶えた。
 ラルはまばたきして上を見上げた。高い尖塔が伸びていた。その周りを鳥のような影が飛び回っている。
「塔を調べろ。」
「マナの流れは確かに上に向かっています。しかし、ギルド魔道士・ザレック、進むことが出来ません。」
「ザレックでいい。“ギルド魔道士”と呼ぶな。分かったか?それから今、イゼットの魔道士とあろうものが何かを“出来ません”と言った気がするのだが?」
「ですが・・・あれはアゾリウスの塔です。あそこでグリフィンを育てているのです。」
「爆発機を塔にぶっぱなせ。面白い実験になるじゃないか。」
 ラルに質問をしていた研究員は他の魔道士、塔を見て、再びラルの方を見た。
「俺は火想者と直接話をしてきた。この計画はニヴ・ミゼット様の最優先事項だ。それがどういう意味か分かるか?つまり、お前にとっても最優先ということだ。俺達は迷路を解く。そしてイゼットが・・・」
ラルは声を抑えた。
(俺達が何もかも支配するんだ。)
「しかし、ただのアゾリウスの塔ではありません。グリフィンの巣です。」
雲が太陽を覆い隠し、ラルの顔に影を落とす。
「もういい。俺がやる。」
 ラルは両腕を広げ、歯を食いしばった。雲の中で蒼色の稲妻が走り、近くの塔に落ちた後一つになった。そこに生まれたのは、嵐によって作られたエレメンタル。暗雲の体に、稲妻の両眼と口。
 ラルが命令を送ると、嵐のエレメンタルはアゾリウスの尖塔に向かって口から稲妻を吐いた。塔が爆発し、グリフィンの悲鳴が聞こえた。
 騎兵隊が現れ、武器を構えていた。彼らは、一人の行政官か法務官らしき人を援護していた。行政官は、届けられた苦情とラルが破った法のリストを読み上げた。ラルにはそれが異様にこっけいに思えた。上空ではラルが作り出したエレメンタルがまだ暴れている。
 行政官は延々と要求のリストを読み上げていた。そこに嵐のエレメンタルが吹き起こした風がリストの巻物を飛ばし、稲妻がそれを消し炭にした。
 アゾリウス全員の顔がゆがみ、一人、また一人と撤退した。
「ギルド魔道士・・・えー、ザレックさん。」
若い魔道士が呼びかけた。ラルは振り返らなかった。
「あなたの言うとおりでした。マナの流れは上に向かっています。塔を抜けて、隣接した屋根の方に下降しています。」
「だったら、行くぞ。」
「もう一つ申し上げます。研究員クラマがアゾリウスと戦って亡くなりました。彼女は拘束の魔法で捕まって、私たちが法魔道士を追い払ったときに出られなかったのです。彼女は窒息死しました。」
「俺達にはまだまだやる事がある。また道が途切れないようにな。」



 トロールの顔にはゴルガリのシンボルが白くペイントされていた。背中から肩にかけて茸が生え、筋肉質の体や顔には無数の傷跡があった。幾多の戦闘を経験していることは明らかで、高い再生力を持っているようだ。
 こちらを見ているのに気付いていないトロールの様子から察するに、ジェイスの姿を消す魔法は効いているようだった。息を殺して脱出の糸口を探したが、肝心の出口をトロールが塞いでいる。トロールは匂いをかぎながら棍棒を振り回していた。
 不意に、トロールは壁に棍棒をたたきつけた。壁にいた一匹の虫が潰された。
「誰だぁ?」
トロールが吠えた。
「出て来い、よそ者。お前の肉の匂いで分かるぞ。」
 ジェイスの姿を消している魔法が徐々に解けていた。このトロールの感覚が強すぎて、魔法で隠しきれない。他の身を守る手段を考えたが、ジェイスはパニックを起こして考え付かなかった。ジェイスは壁のパイプに背中を付け、棍棒を避けることしか出来なかった。
「見つけたぞ、小っこいの。」
 目が合った。ジェイスは見えるようになっていた。反射的に対抗呪文を構えたが、トロールの棍棒の前には意味を成さない。
「俺様の門に侵入する気か?そうだな?俺様を倒して、俺達の物を盗めるとでも思って街路衆の地に来たのか?」
 ジェイスは倒れているラクドスの死体からダガーを拾った。とりあえず武装しているという安心感を得るためだけに。そこで一つの考えが浮かんだ。
「やってみろ。」
トロールは笑っていた。
「ヴァロルズに打ち込んでみろ。思いっきりだ。」
 そう言うと、ヴァロルズと名乗るトロールは両腕を広げ、傷跡だらけの自分の胸をさらけ出して見せた。
 ジェイスは壁のパイプにダガーを差し込んで詰まらせ、すぐに飛びのいた。超高温の水がパイプの穴から噴き出し、ヴァロルズを直撃した。
 沸騰した水が止まり、蒸気が消えると、トロールはそこに立っていた。胸の一部が焼け落ちて中の筋肉がむき出しになっていたが、既にそれを覆うように皮膚が再生して広がり始めている。
「今度はヴァロルズの番だ。」
トロールが反撃しようとした。
「ジェイス!」
闇の中から女の声が飛んだ。
「伏せて!」
 しかし、トロールの棍棒が目標を捕らえた。ジェイスの意識の中で痛みが爆発したように広がり、その後目の前が真っ黒な虚無に覆われ、ジェイスは石畳に倒れた。



 ジェイスは目を覚まし、モンスターを見上げていた。それはトロールのヴァロルズではなかった。
 茨と草木の葉、白い大理石で形作られたそれは、ゴルガリのものではない。生命に溢れ、内なる光によって動いている。
 誰かがジェイスに手を触れる。ジェイスは大きく安堵した。イマーラが側に座っていた。
「もう駄目かと思ったわ。」
イマーラは昔のようにジェイスの傷を癒していた。
「ラクドス・・・ラクドスが君を連れ去ったんじゃなかったのか?」
「私は自分で、ラクドスとここまで来たの。彼らは宿屋の部屋に押し入って、その場所を破壊しつくして見せた。私の名前を知っていて私を脅迫しようとしたの。一緒に来いと。彼らのやり方じゃない・・・ラクドスは殺人者だけれども誘拐なんてしない。誰かが絡んでいるはずよ。」
 ジェイスは、イクサヴァの中にあった黒いフードの姿を思い出した。
「誰かが仕向けた。けれどそれが誰かはまだ分からない。なぜ、あいつらに従ったんだ?」
「あなたよ。あそこにいたのが私だけなら、すぐに追い払えたかもしれないけど、貴方がそこで自分の記憶を壊していたから。」
「僕が・・・何だって?」
「ラクドスが部屋を荒らしている時に貴方は倒れていて、起きなかったの。彼らの一人が、貴方の喉に武器をつき立てて殺そうとして・・・だから取引をしたの。貴方を置き去りにしてここまで連れてこられて、それから待っていたの。ここで他の誰かに私を引き渡すつもりだったみたい。それで、私はここで友達を召喚して、全員倒したわ。この子はあのゴルガリのトロールも追い払ってくれたの。」
 ジェイスは巨大なセレズニアのエレメンタルを見上げた。あまりにも巨大で、天井の高いこの部屋に収まりきらずに前かがみになっている。イマーラが生命を持った構築物を作り出すのは見たことがあるが、それはおもちゃに過ぎない。イマーラがこれほど強力なものを召喚するのは見たことが無かった。
 イマーラがエレメンタルにお辞儀をするとエレメンタルも一礼を返し、僅かに舞い落ちる葉を残して消え去った。
 ジェイスはイマーラの話で特に理解できなかった部分がある。ジェイスが自分の記憶を破壊していた。しかし、詳しく聞こうとする前に何者かが現れた。

 闇の中から吸血鬼が出てきた。肌寒い地底街の中なのに、上半身は裸であった。
「私はミルコ・ヴォスク。どうやらお前達があのラクドスの下っ端どもを倒したようだな。手間が省けて助かる。」
「あなたは、ディミーアですね。」
「お前たちには残念かもしれんがな。そろそろお前を回収させてもらうぞ、お嬢さん。我が主はいつまでも待たされるのは好きではないからな。そしてベレレン、お前はついでだ。主がお前にも、いくらか目をかけておられた。」



 カヴィンは新プラーフの塔の一つを登っていた。アゾリウスの警備隊長のサインが書かれた書面を行き当たる全ての官僚、書記官、法魔道士に見せながら進んだ。
 二人組みの警備兵が目的地のドアを開けた。ラヴィニアの執務室は驚くほど狭かった。
「お久しぶりですね、カヴィン。お茶でもいかが?」
カヴィンは中に入りラヴィニアの反対側に座った。
「お会いしていただき、有難うございます。」
「ジェイス・ベレレンの情報があるとおっしゃっていましたね?」
「そうです。」
「彼はどこに?」
「今どこにいるかは分かりません。」
「最後にジェイス・ベレレンを見たのは?」
「3日前です。彼は私を研究所のそばの宿に連れて来ました。その研究所で彼の下で調査をしていたのですが、その場所は破壊されたのです。貴女もそれはご存知かと。」
「何の調査を行っていたのですか?」
「詳しいことは覚えていません。最後にあったとき、ジェイスは私たちが発見したことの記憶の大部分を破壊したのです。」
「記憶を破壊する魔法を使うというのですか?」
「はい。」
「あなたが研究を思い出さないように魔法を使ったのですね?」
「そうです。しかしその間に私は逃げ出しました。呪文が完了する前に、記憶の一部をノートに書き込みました。」
カヴィンは1枚の巻物をラヴィニアの机に置いた。
「私は自分が書いたことの全てを理解できません。しかし自分の手で書いたものです。私が書いたのは街中の建物に埋め込まれた手がかり、古いアゾリウスの暗号。イゼットが発見しようとしている道、それがギルドの均衡を崩しかねない力に導いている事。最後に、あなたの名前を書いたのです。」
「そうして下さって、助かりました。」
「分かっていると思いますが、ここに書いている事が本当だと確かめる術はない。何らかのジョークかも分からない。だがそれでも、これは然るべき権限を持つ人に見せるべきだと私は思ったのです。」
 ラヴィニアは手にしていたカップを置いて腕を組んだ。
「カヴィン、戻ってきてくれないかしら?あなたは優秀な法魔道士。ここにいたほうがあなたの力を発揮できます。」
「それはもう私の生きる道ではない。ギルドパクトは消えた。昔のプラーフも無くなった。もはやこのギルドに私の居場所は無いのですよ。」
「ただの感傷ではないですね?マスター・ベレレンと呼ぶあの男に忠誠心があるのではないですか?」
「私を侮辱しないでくれ、ラヴィニア。忠誠心があるのなら、なぜ私はここにいるのです?」
「おっしゃる通りです。ではカヴィン、私たちがベレレンに接触するのを手伝ってはくれませんか?」
「ジェイスに罠を仕掛けると?」
「この地区に秩序を取り戻すのです。」
「彼は当てにならないですよ。自分自身の記憶も破壊しようと計画していたのです。」
「あなた達の研究所が潰された夜、セレズニアの高い地位の者がベレレンといたのは知っていましたか?」
「それは覚えています。ジェイスの友人、イマーラ・タンドリス。」
「トロスターニのお気に入りよ。彼女がその同じ夜に誘拐されて、それ以来誰も二人を見ていないのは知っていましたか?」
「それは知らなかった。あなたがそれを確認したのですか?」
「貴方が知っているよりも多くのことが起こっているのですよ、カヴィン。どうか戻って来て。」
「ですが、ラヴィニア。今言ったように、ジェイスは迷路の事を何も覚えていないはずです。私と同じ状態にあるのなら、彼は自分の記憶を失っている。」
「そうかも知れません。もしかしたら、ベレレンにとってはそれが良いのかも。今はそれが、彼の命を守っている唯一の可能性かも知れないわね。」

(『ギルド門侵犯』に続く・・・)

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