社畜すぎてマジックそのものが出来ていないシグマです。
今週も日曜のゲームデーまでプレイは実質我慢。
そろそろ次のブロックが出たり、コミケやら何やらでストーリーも流れ始めているみたいですので、この翻訳シリーズも完結まで向けて急いでいきます。
※この翻訳は管理人の独断と偏見でいろいろと省略した訳となっています。盛り上がるところは出来る限り原文を再現しますが、完全な翻訳では無いのでご注意ください。あらすじ感覚で読むといいでしょう。
まだ最初の『ラヴニカへの回帰』を読んでいない人はこちらへ↓
http://djsigmavsmtg.diarynote.jp/201307062307557258/
http://majimagichannel.blog.fc2.com/
『ギルド門侵犯』から読む場合はこちらへ↓
http://djsigmavsmtg.diarynote.jp/201307150012212277/
『ドラゴンの迷路』の最初から読む方はこちら(といっても1個前だが)↓
http://djsigmavsmtg.diarynote.jp/201308030018149194/
では、どうぞ。
(これまでのあらすじ)
ジェイスは迷路の化身である魔法的存在、「管理者」と出会い、迷路に隠された真実を知る・・・全てのギルドが迷路を解けば然るべき者によってギルドパクトが復活する。さもなければ、アゾールの「至高の評決」がもたらされる。「至高の評決」とは、全ての罪人を街ごと消し去る恐るべき破壊の呪文であった。
ジェイスの不安をよそに迷路を走る勇者を決めていく十個のギルド。ミゼットが主催した迷路の競争が、今始まろうとしていた。
5章 THE STARTING LINE (競争開始地点)
ギルド渡りの遊歩道の横道で、ジェイスは迷路走者のチームを観察していた。多くの見覚えのある顔があるが、そこにイマーラの姿はなかった。
ラクドスのごろつきを従えたイクサヴァ、以前と同じ戦士たちを連れているルーリク・サーの姿が見えた。
「どけ。」
声がして、ジェイスは振り返った。誘拐されたイマーラを探した時に地下で遭遇したゴルガリのトロール、ヴァロルズがジェイスの横を通り過ぎた。三人のエルフのシャーマンを従えている。全員がゴルガリのシンボルを顔に白くペイントしていた。
上空の、弧を描く柱の影にはミルコ・ヴォスクが浮かんでいた。ヴォスクは一人だが、どこにディミーアの魔道士が隠れているか分からない。
アゾリウスの法魔道士の集団は少しでも落ち着いているように繕っているが、脚を動かしながら他のチームを背伸びして観察する様子からは、普段と勝手が違うのが見て取れる。その中にはラヴィニアもいた。直立して柱のように動かないが、目は集団の向こうの建物を見回している。この瞬間でもジェイスを探しているのかもしれない。
オルゾフを代表しているのはジェイスも知らない長身の女性だった。オルゾフの黒い太陽のシンボルが描かれた面で顔が完全に覆われた兵士を従える。オルゾフの僧侶が他のチームに囁き、おそらく賄賂を与えて情報を集めていた。
分厚い鎧を着込んだ茶色い髭の屈強な男性が、多種多様な種族で構成されたボロス軍の兵士を率いていた。ボロス軍の兵士には人間、ミノタウルス、ゴブリンから、炎の体にボロスの鎧をあてがった人型のエレメンタルまでいる。
シミックの代表者は人間のような水生動物のような、マーフォークと思わしき魔道士だ。彼は巨大なカニとイカを合成したような生物に跨っていた。ジェイスはシミック連合とは直接関わったことが無いが、彼らは進歩のためとして、与えられた生物の境界を越えようとしている事は分かっていた。
遊歩道の中心にある木製のステージには、あの戦闘中にミゼットのメッセージを流した男が数人のイゼット魔道士に囲まれていた。彼の横にいるのは、様々なエネルギーを合成して作られたと思われる氷のエレメンタルだ。
イゼット魔道士が手を上げて注目を求めると、彼のガントレット(篭手)を電気が小さく走った。
「迷路走者よ、そしてギルドの代表団たちよ!私はイゼット団を正式に代表して迷路の競争を執り行う、ラル・ザレックである!」
代表の中から唸り声が上がった。
「お前達は皆、偉大なる火想者が執り行うイゼットの大いなる実験、暗黙の迷路の競争に招待されてここに来ている!」
文句や不満の声が上がって来た。
「あんたの迷路じゃないんだぞ!狂人め!」
ボロス軍の兵士が叫んだ。
「さっさと殺し合いを始めろォ!」
ラクドスの戦士がやじる。ジェイスは人々を見回すが、セレズニアの代表者は見つからない。イマーラがいない。
ラルが続けた。
「この実験に参加できることを幸運に思うがいい。我々は、全てのギルドが参加する必要がある事を突き止めた。間もなく、正式な迷路走者によって競走が始められる。迷路を解くには、決められた迷路走者が迷路のそれぞれのポイントに辿り着かねばならない。一度迷路走者が迷路に入れば、他の誰もギルドのためにルートを辿る事は出来なくなる。」
ボロス兵の一人が聞いた。
「勝てば何がもらえる!?」
「迷路の報酬は発表されていない。」
「知らないんだろうが!」
ラルが答えるとその男が冷やかした。
雲の無い空に稲妻が走ると、多くが驚いて飛び上がった。
「貴様らの無知を晒すだけだぞ、兵隊さん。」
ラルが言った。
「これはゲームのように見えるかもしれないが、迷路は極めて重要なものだ。ギルドの創設者の時代から、この迷路は隠されてきた。かつてギルドの戦争を防いできたギルドパクトが死ぬまで、迷路の発見は不可能だったのだ。この迷路を解くことが、どのギルドが跪き、どのギルドが支配するのかを決定する!」
より秩序を重んじるギルドからも不満の声が挙がった。
「では迷路走者よ、進み出るがいい!選ばれし勇者の名と、所属ギルドを名乗るのだ!」
一人ずつ、選ばれた迷路走者がステージのラルに近づいていく。ジェイスは思考を辿るが、イマーラの精神は未だ見つからない。
「ボロス軍の、司令官タジーク。」
「第十管区のラヴィニア。アゾリウス評議会の正式な代表者です。」
「ヴァロルズ。ゴルガリ。」
「ルーリク・サー。グルールがこの街を飲み込むぞォ!!」
ときの声が挙がる。
「育殻組のヴォレル、シミック連合。」
「テイサ・カルロフ。オルゾフ・シンジケートの大特使を務めていますわ。」
「イクサーーーーヴァ!我が輝かしい教団がこの身を捧げるは、悪魔の王・ラクドォーーーーース!」
ラクドスの戦士が様々な形の刃や棘付きの棍棒を空に掲げて歓声を上げた。
ミルコ・ヴォスクがステージに飛んできて何かを囁いた。
「何だって?」
ラルが聞き返した。
「ミルコ・ヴォスク。」
辛うじて聴こえる声でヴォスクが言った。
「ギルドは?」
「ディミーア家。」
ラルが頷いた。
「セレズニアの代表者はいないか?」
ラルが周囲を見回した。
「セレズニア?」
「あんな植物愛好者どもは抜きにして始めないか?」
タジークが鼻を鳴らすと、同意の声が出てきた。
「そうしてやりたいのだが、セレズニアがいないと始まらないのだ。」
ザレックが答える。
「私はここです。」
声がした。人混みが二つに分かれて、イマーラが姿を現した。
イマーラの様子がおかしかった。彼女の外見は何も代わりが無い。しかし、イマーラの他に誰もいないのだ。エルフの狼乗りも、議事会の僧侶や樹彫師も、カロミアもいない。イマーラは一人だった。共同体の価値を重んじるギルドとしては異常だ。
「イマーラ・タンドリス。セレズニア議事会を代表します。」
「よろしい。」
ジェイスは身を隠したままイマーラの精神を探り、イマーラの表層思考や感情に触れて安心した。しかし、これがラザーヴの変身した偽者ではないと確証出来ない。
(君が来てくれて良かったよ。)
ジェイスはイマーラの精神に語りかけた。
イマーラはザレックの方を見たまま言葉を返した。
(ジェイス!どこにいるの!?)
(僕はここだ、遊歩道にいるよ。探さないで。でも君と一緒だ。)
(カロミアの事は・・・あなたが正しかったわ。カロミアを殺した化け物はどこかに居るけど、なんとかここまで辿り着いたわ。)
(議事会はあまり助けてくれなかったようだね。)
(私の事は厄介払いなのでしょう。街中を走っていたほうが議事会に居るよりも面倒を起こさないと思っているのよ。)
(彼らは君の事をよく分かっていないね。)
イマーラから微かな笑顔が見えた。
ラル・ザレックの横に居たエレメンタルのような存在が、体内でエネルギーを渦巻かせて一歩進んだ。僅かなお辞儀をして機械的な声であいさつをした。
「ソシテ、私はメーレク・・・私ハ迷路を走りマス・・・代表するギルドは・・・」
ザレックがそれを遮った。
「そして、私はラル・ザレック。」
ザレックはメーレクの背中に腕のガントレットを叩き付けた。メーレクの体から電気が吸い込まれる。メーレクの氷の体から火花が吸いだされ、骸骨のような氷の体だけが残された。そして、イゼットの迷路走者だった者はステージに崩れ落ちた。
「俺はラル・ザレック。そして俺がイゼットを代表する。」
「ここに、十人の代表者が揃った。ラヴニカの全てが、このギルドに選ばれた勇者を注目しているだろう。そして歴史上の全てがこの日を振り返ることになる。では、ルールをよく聞くが良い。」
ザレックが言うと、荒っぽいギルドから文句の声が聞こえた。ザレックはガントレットを高く掲げた。
ザレックはあらゆる方向に稲妻を放射し、近くにいる代表団の兵士を気絶させる。そしてステージが崩壊し、中から小さな狐の形をした稲妻のエレメンタルが飛び出し、手当たり次第に人に噛み付いた。
「ルールは、無い。」
混乱。全ギルドが暴徒と化し、右往左往しながらもそれぞれ動き始めた。
イマーラはザレックの近くで稲妻を受け、ただ自分の両手を見つめながら震えていた。ジェイスは飛び出して、イマーラを混乱の中から運び出した。
「さあ行こう、僕の迷路走者だ。脚を動かせるか、一歩ずつ。」
ジェイスはザレックの方を見た。ザレックとそのチームはいなくなっていた。アゾールの試練が始まったのだ。
ミルコ・ヴォスクと目が合ったが、ヴォスクは闇の中に消えた。
他のそれぞれのギルドも散らばって、各々が違う門に向かっていった。いくつかのギルドはイマーラが来た方向に向かっている。それぞれが持てる知識で、あるいは全くのランダムで門をくぐろうとしている。
イマーラが瞬きしてジェイスを見た。ジェイスが彼女を支えているのに気付いた。
「始まったのね。」
ジェイスは少しでも自身があるように見せて言った。
「ああ。君が勝つよ。」
「私は自信が無いの。エレメンタルの大軍で守りながら街を突き進むつもりだったのに・・・」
「それは良い考えだ。」
「でも、出来ないの・・・あの力はトロスターニに破棄されてしまった。借り物だったの。」
ジェイスはイマーラの背中を支えながら言った。
「大丈夫だ。僕達はやれる。ルートも分かっているだろう。君は最初の部分を知っている。」
「・・・セレズニアのギルド門へ。」
「ああ。簡単だよ。」
「また彼らに会わないといけないのね・・・トロスターニ、他のギルド。」
「他に出来ることがあるか?」
イマーラは肩を張って言った。
「そうね。グリフィンでも雇う?」
ジェイスはまだ遊歩道でうろついているチームを見た。ゴルガリが昆虫に乗ろうとしている。昆虫はその体の横の長さよりも非常に高く、一部の建物よりも高いくらいだ。数人のエルフが背中に取り付けられたサドルに乗る。トロールのヴァロルズがその生物の前をセレズニア区画に向かって走り出した。
「もっといい考えがあるよ。」
ジェイスが言った。
6章 CRASHING THE GATES (ギルド門への突入)
イマーラがジェイスの精神に話しかけた。
(確かにこれなら目立たないけど・・・。)
(その通り。快適さは二の次だよ。)
ゴルガリの長脚の腹で、昆虫に取り付けられたサドルを支えるベルトにジェイスとイマーラは掴まってぶら下がっていた。ジェイスは上下逆さまになって街を見渡す。イマーラは目を閉じていた。
(二の次ですって?間違いなく最後でしょう・・・。)
(大丈夫か?しっかり掴まっている?)
(頭の中に話しかけるのは止めて。後であなたをどうやって殺すか考えているのよ。)
ジェイスはゴルガリの昆虫に掴まりながら、前を先導して走るヴァロルズの背中を見た。振り返ってこちらを見ないように祈りながら。
ゴルガリの昆虫は目的地、セレズニアのギルド門に辿り着いた。柔らかな蔦が這う巨大な大理石の門は大型のエレメンタルが通れるように高く作られており、ゴルガリの巨大な昆虫でも通ることが出来た。しかし、セレズニアの領域に入ると、門の上から兵士が矢を放った。
ゴルガリの巨大昆虫が倒れ、ジェイス、イマーラ、ゴルガリのエルフが投げ出された。矢を撃った襲撃者はセレズニアの服装ではない。シミックの奇襲だったのだ。
ジェイスが見ると、倒れたイマーラは、シミックの迷路走者を見上げていた。
「エルフ・・・」
ヴォレルがイマーラを見下ろして言った。
「古の種族。改良されず。進化していない。すぐに時代遅れの種族になる・・・」
ヴォレルの使い魔、巨大なカニのような生物がイマーラをハサミで地面に釘付けにしていた。
「彼女を放せ。」
ジェイスが呪文を構えて警告すると、ヴォレルがジェイスの方を見た。
「人間。改良されず。未知の潜在能力あり・・・。」
周囲にはセレズニアの兵士はいない。イマーラを見捨てたのだ。門を守ることすらしない、それほどに迷路に関心が無いのか。
シミックの迷路走者ヴォレルはイマーラの前にしゃがみ、見慣れぬ昆虫を観察するように頭を傾けた。
「お前の生命はシミックが描く未来に適合しない。」
ヴォレルはカニのハサミをイマーラの胸に押し当てる。
その時、セレズニアの兵士が現れヴォレルと彼の巨大なカニを包囲した。
「彼女を解放しろ。」
兵の一人が言った。ヴォレルは自分に向けられた剣とイマーラを見比べると、カニのような生物を連れて立ち去った。
イマーラは息を吐き、周りの兵士達に言った。
「有難う。助かりました。」
「イマーラ、すまない。」
ジェイスが言った。
「何のこと?」
ジェイスは呪文を解いた。セレズニアの兵士が蒼色の光になって消え去った。イマーラは失望してため息をついた。
「幻だったのね。」
「シミックをやり過ごすのにこれしか考え付かなかった。」
ジェイスが答える。
「一瞬、あなたがセレズニア議事会全員の心を入れ替えたのかと思ったわ。」
「それも考えたけどね・・・」
イマーラはローブから埃を落とし、ジェイスの方を見た。
「ジェイス・・・貴方はどんな気分で過ごしているの?貴方の能力を使うというのは?あなたの限界は何?」
ジェイスはフードが落ちるに任せた。
「誰も知ることはできない。」
ジェイスは迷路の方に振り返った。イマーラがジェイスの全てを知れば、二度とジェイスを信じる事は無いだろう。
「どういう意味?何か隠しているの?・・・ジェイス・ベレレンの秘密は何なの?」
「行こう。ゴルガリが待っている。」
◆
ジェイスはこの場所を以前訪れていた。ヴァロルズの住処、あるいは狩場だ。その先にあるゴルガリの門に辿り着くには、長い腐食した橋を渡らなければならない。
橋の下は何百フィートかそれ以上、粘液が川のように滴り流れている石の床だった。
すぐ前にシミックのチームがあり、そのさらに前には、タジークとボロス軍の兵士達がいた。彼らの前にはトロールのヴァロルズが立ちはだかっていた。
ボロスの僧侶が祈りを捧げると、天井が崩れて光がヴァロルズめがけて差し込んだ。ヴァロルズの体が発火し、巨大な体が倒れた。
タジークの合図でボロス軍のチームはヴァロルズを通り過ぎ、門を抜けてトンネルに消えた。光が消えて、ヴァロルズの燃える体が残された。シミックも後に続いて通り過ぎようとした。
「急げ!門をくぐれ!」
ヴォレルが指示を飛ばすが、ヴァロルズは起き上がって棍棒を振り回した。シミック兵の一人が棍棒で吹き飛ばされて橋から落下して、骨溜めの中を跳ねた。カブトムシのような巨大な昆虫がその死体に近づいて飲み込んだ。
ヴォレルがトロールと戦っていた。ヴォレルが呪文を唱えようとする間にヴァロルズの拳がヴォレルをとらえ、橋の縁に叩き付けた。ヴォレルはバランスを崩して橋から落下するが、辛うじて片手で橋に掴まっていた。
ジェイスは身を乗り出してヴォレルの腕を掴む。そして先ほどイマーラを殺しかけた男を引き上げた。
「有難う。あのトロールを甘く見ていた。」
ヴォレルが言った。
「僕も前に同じ間違いをした。」
ジェイスが答えた。
「手を組んであのトロールを突破する?それとも、時代遅れの種族とは手を組めないのかしら?」
イマーラが聞いた。ヴォレルは彼らのほうに歩み寄った。他のシミックの魔道士は指示を求めて見ている。
「君は何の魔法を使える?」
ジェイスが聞いた。
「私は生術士だ。生物の専門家だ。」
「彼を止められるか?」
「生物を傷つける呪文は使えない。」
「それはあなたのペットにやらせればいいのよ。」
イマーラが言った。
「そうだ。どれくらい早く召喚できる?」
「何を召喚する?」
ジェイスはトロールの巨体を見た。
「何かでっかくて、腹を空かせたやつだ。」
ヴォレルはトロールの方を向き、両手から海のような青色の光を呼び出した。その光の海は徐々に大きくなっていき、突風と水しぶきの中から触手と甲羅の怪物が姿を現した。リヴァイアサンはヴァロルズの方を見て触手を伸ばし、持ち上げた。
ヴァロルズの唸り声を背に、ジェイス、イマーラ、ヴォレルとシミックの代表団はゴルガリのギルド門をくぐりぬけた。
7章 THE STING OF JUSTICE (正義の一刺し)
アゾリウス兵がギルド門を塞ぎ、ジェイス、イマーラ、ヴォレル率いるシミック連合の進路を塞いでいた。ジェイスが進もうとすると、アゾリウスの兵達は一斉に剣を向けた。
ラヴィニアが階段を下りてくる。その後にはカヴィン・・・あるいはカヴィンに化けたラザーヴ・・・が続いていた。カヴィンは微かに微笑んでいた。感情の薄いカヴィンからは見られなかった表情だ。ジェイスは、カヴィンはおそらく死んだのだろうと悟った。
「元気そうじゃないか、カヴィン。実際、前に会ったときよりもずっと。」
「この期に及んでまだギルドのやることに関わっているのですか。嘘を振りまいてギルドの競争に干渉し・・・」
ジェイスは自分に向けられた剣をどけでラヴィニアに言った。
「ここを通してくれそうにはないよね。」
カヴィンがラヴィニアの耳元に何かを囁き、ラヴィニアが言った。
「迷路走者は通って結構です。ベレレンと他の者は残りなさい。」
抗議を上げたのはヴォレルだ。
「私は一人ではここを通らんぞ。古臭い法律の信者などに我々は止められない。」
ラヴィニアは法魔術を放った。まばゆい光がラヴィニアの手から飛び出し、ジェイスの視界が直るとヴォレルの兵士達がアゾリウスのルーン文字に拘束されていた。
「彼らを放せ!」
ヴォレルが叫んだ。
「彼らはアゾリウスの正式な手続きを受けていませんので。あなたとエルフは私に同行して門を通過できます。」
「何が目的だ?」
ジェイスはカヴィンの姿をした者に聞いたつもりだったが、代わりにラヴィニアが答えた。
「私は今、“暗黙の迷路”がギルドの協調性を試していると理解しています。ギルドの統合の試練です。迷路走者は創設者の望むように傷付くことなく迷路を進まなければなりません。それが我々全員にとって本当の勝利への道。そうでなければ破滅が訪れるのです。」
「“彼”がそれを教えたのか!?」
ジェイスがヴィダルケンの男にあごを向けて言った。
「貴方が記憶を侵すという犯罪的行為を受けたとしても、カヴィンは貴方が思うよりはるかに迷路の事を知っていました。」
「カヴィンは、死んだ。」
ジェイスが言った。イマーラがジェイスの方を見て、そしてシェイプシフターの方を睨みつけた。
「あなたの嘘は苦し紛れに聴こえますよ、ベレレン。今こそ、あなたを我が管区から排除するときです。」
ジェイスは即座に対抗呪文を構えたが、その力が抑え込まれているのを感じた。アゾリウスの衛兵か、門から彼を見下ろすアゾリウスのシンボルの力だろうか。
「この言葉を言える時を待っていました。」
ラヴィニアはジェイスの両腕に手錠のような光の輪を召喚した。
「ジェイス・ベレレン、アゾリウス評議会の名の下に、あなたを逮捕します。」
「間違っているわ!ジェイスは必要です!」
イマーラが言った。
「イマーラ、行け!ヴォレルを連れて他の迷路走者に追い上げるんだ。すぐに追いつくから!」
カヴィンがジェイスを連行するために肩を掴んだ。
◆
ラル・ザレックは自ら作り出した雷雲の精霊に乗っていた。彼はオルゾフの衛兵を稲妻で薙ぎ払い、その爆発はオルゾフの僧侶や貴族が描かれたステンドグラスの肖像画を破壊した。他のイゼットの魔道士は後に続いて走っていた。ラル以上に迷路を知り尽くした者はいない。たとえあのくだらないメーレクであっても。
オルゾフの僧侶が灰色のインプのようなスラルを召喚して妨害していた。ラルは執拗な妨害にうんざりしていたが、迷路の知識を最も多く持つゆえの代償だった。これが先頭に立つ者の、プレインズウォーカーであることの代償だと思った。他のギルドは後を追って、自分たちで道を調べようとせずに先頭を引き摺り下ろそうとしている。
ラルの思惑通りであれば、他のギルドがそもそも関わることすらなかった。ニヴ・ミゼットが出した推論では、全てのギルドが参加しなければ迷路の恩恵は得られないということだ。その情報の一部は門無しの魔道士、ベレレンによるものだ。もしも今ベレレンを見たら、その借りを返すつもりだ。ニヴ・ミゼットはラルが大切なメーレクに成り代わったことを快く思わないだろうが、ラルは自分の力を証明すればいい。多くの連中に、彼らが間違っていると証明するのは面倒だった。
ラルはオルゾフの門を突破してシミックの門に向かった。振り返ってスクリーグや他のイゼットの魔道士がついていているかを確認もしなかった。こいつらには、プレインズウォーカーであるとはどういう事か分からない。
◆
ラヴィニアに捕らえられたジェイスは法廷に連れて行かれた。中心にはスフィンクス、イスペリアがいる。そしてカヴィンの姿をしたラザーヴが一緒にいた。
「止めるんだ。頼むラヴィニア。自分で言っただろう。競争が成功しなければ、地区の全てが危険にさらされるんだ。」
「ついに正義が執行されます!」
ラヴィニアが宣言した。
「法の執行を。この法廷はあなたのために特別に設立されたのです。」
イスペリアの表情からは何も読めない。精神を深く読み取らない限り、何か感情があったしても分からないだろう。
「正当な判決無くして容疑者は釈放しない。」
スフィンクスが言った。
「僕を自由にしてくれ。破滅を食い止めるために。」
「我々が止めます。我々がこの魔法を解除できます。」
ラヴィニアが言った。ジェイスは、カヴィンがイスペリアを見るのを捉えた。
「いや、それはしない。」
イスペリアが言った。
「この迷路はアゾールによって作られたもの。アゾールは私よりも以前から法の化身であったのだ。ゆえに彼の作った法を撤回する事は出来ない。」
それにラヴィニアが反論する。
「ですが、街が破壊されます。ギルドが協力できると証明できなければ、“至高の評決”が発動してしまいます。」
「アゾールの知恵は論理に基づいている。ギルドはお互いに怒りを向ける一方。我々はギルドパクトの導きが無ければそれぞれの違いを乗り越えることが出来なかった。評決は正義にかなっているやも知れぬ。」
「緊急措置を議会に送りましょう。評決を差し止めるべきです。」
「そのような事はしない。我々はアゾールがギルドを設立した真実の意思を受け継ぐのだ。それは、この暗黙の迷路を執り行うことに他ならぬ。迷路が伝える事を、迷路を創った者の意思を受け継ぐことだ。それは評決を執り行う事でもある。」
「我々はみな死んでしまいます。」
ラヴィニアが肩を僅かに落として言った。
カヴィンは笑っていなかった。ジェイスにはこのシェイプシフターの思考を読めなかったが、大勢の命が失われるという発言に対し僅かに顔を傾けた仕草から、これもラザーヴの計画の一部だという意味であるように思えた。
「判決を言ってくれ。」
その場にいた全員がジェイスを見た。
「裁判を始めて、判決を出せ。有罪でもいい。必要な事を全部済ませろ。そして執行猶予を付けてここから出してくれ。僕に大勢の人が死ぬのを止めさせてくれ。」
「とんでもない。」
ラヴィニアが言った。
「不可能だ。」
カヴィンが言った。
「興味深い。」
スフィンクスが言った。
ラヴィニアとカヴィンがショックを受けたようにイスペリアの方を見る。ジェイスは、外に出られる一抹の希望を感じた。少しでも時間を浪費しないことをただ祈っていた。
(後編へ続く)
今週も日曜のゲームデーまでプレイは実質我慢。
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※この翻訳は管理人の独断と偏見でいろいろと省略した訳となっています。盛り上がるところは出来る限り原文を再現しますが、完全な翻訳では無いのでご注意ください。あらすじ感覚で読むといいでしょう。
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では、どうぞ。
(これまでのあらすじ)
ジェイスは迷路の化身である魔法的存在、「管理者」と出会い、迷路に隠された真実を知る・・・全てのギルドが迷路を解けば然るべき者によってギルドパクトが復活する。さもなければ、アゾールの「至高の評決」がもたらされる。「至高の評決」とは、全ての罪人を街ごと消し去る恐るべき破壊の呪文であった。
ジェイスの不安をよそに迷路を走る勇者を決めていく十個のギルド。ミゼットが主催した迷路の競争が、今始まろうとしていた。
5章 THE STARTING LINE (競争開始地点)
ギルド渡りの遊歩道の横道で、ジェイスは迷路走者のチームを観察していた。多くの見覚えのある顔があるが、そこにイマーラの姿はなかった。
ラクドスのごろつきを従えたイクサヴァ、以前と同じ戦士たちを連れているルーリク・サーの姿が見えた。
「どけ。」
声がして、ジェイスは振り返った。誘拐されたイマーラを探した時に地下で遭遇したゴルガリのトロール、ヴァロルズがジェイスの横を通り過ぎた。三人のエルフのシャーマンを従えている。全員がゴルガリのシンボルを顔に白くペイントしていた。
上空の、弧を描く柱の影にはミルコ・ヴォスクが浮かんでいた。ヴォスクは一人だが、どこにディミーアの魔道士が隠れているか分からない。
アゾリウスの法魔道士の集団は少しでも落ち着いているように繕っているが、脚を動かしながら他のチームを背伸びして観察する様子からは、普段と勝手が違うのが見て取れる。その中にはラヴィニアもいた。直立して柱のように動かないが、目は集団の向こうの建物を見回している。この瞬間でもジェイスを探しているのかもしれない。
オルゾフを代表しているのはジェイスも知らない長身の女性だった。オルゾフの黒い太陽のシンボルが描かれた面で顔が完全に覆われた兵士を従える。オルゾフの僧侶が他のチームに囁き、おそらく賄賂を与えて情報を集めていた。
分厚い鎧を着込んだ茶色い髭の屈強な男性が、多種多様な種族で構成されたボロス軍の兵士を率いていた。ボロス軍の兵士には人間、ミノタウルス、ゴブリンから、炎の体にボロスの鎧をあてがった人型のエレメンタルまでいる。
シミックの代表者は人間のような水生動物のような、マーフォークと思わしき魔道士だ。彼は巨大なカニとイカを合成したような生物に跨っていた。ジェイスはシミック連合とは直接関わったことが無いが、彼らは進歩のためとして、与えられた生物の境界を越えようとしている事は分かっていた。
遊歩道の中心にある木製のステージには、あの戦闘中にミゼットのメッセージを流した男が数人のイゼット魔道士に囲まれていた。彼の横にいるのは、様々なエネルギーを合成して作られたと思われる氷のエレメンタルだ。
イゼット魔道士が手を上げて注目を求めると、彼のガントレット(篭手)を電気が小さく走った。
「迷路走者よ、そしてギルドの代表団たちよ!私はイゼット団を正式に代表して迷路の競争を執り行う、ラル・ザレックである!」
代表の中から唸り声が上がった。
「お前達は皆、偉大なる火想者が執り行うイゼットの大いなる実験、暗黙の迷路の競争に招待されてここに来ている!」
文句や不満の声が上がって来た。
「あんたの迷路じゃないんだぞ!狂人め!」
ボロス軍の兵士が叫んだ。
「さっさと殺し合いを始めろォ!」
ラクドスの戦士がやじる。ジェイスは人々を見回すが、セレズニアの代表者は見つからない。イマーラがいない。
ラルが続けた。
「この実験に参加できることを幸運に思うがいい。我々は、全てのギルドが参加する必要がある事を突き止めた。間もなく、正式な迷路走者によって競走が始められる。迷路を解くには、決められた迷路走者が迷路のそれぞれのポイントに辿り着かねばならない。一度迷路走者が迷路に入れば、他の誰もギルドのためにルートを辿る事は出来なくなる。」
ボロス兵の一人が聞いた。
「勝てば何がもらえる!?」
「迷路の報酬は発表されていない。」
「知らないんだろうが!」
ラルが答えるとその男が冷やかした。
雲の無い空に稲妻が走ると、多くが驚いて飛び上がった。
「貴様らの無知を晒すだけだぞ、兵隊さん。」
ラルが言った。
「これはゲームのように見えるかもしれないが、迷路は極めて重要なものだ。ギルドの創設者の時代から、この迷路は隠されてきた。かつてギルドの戦争を防いできたギルドパクトが死ぬまで、迷路の発見は不可能だったのだ。この迷路を解くことが、どのギルドが跪き、どのギルドが支配するのかを決定する!」
より秩序を重んじるギルドからも不満の声が挙がった。
「では迷路走者よ、進み出るがいい!選ばれし勇者の名と、所属ギルドを名乗るのだ!」
一人ずつ、選ばれた迷路走者がステージのラルに近づいていく。ジェイスは思考を辿るが、イマーラの精神は未だ見つからない。
「ボロス軍の、司令官タジーク。」
「第十管区のラヴィニア。アゾリウス評議会の正式な代表者です。」
「ヴァロルズ。ゴルガリ。」
「ルーリク・サー。グルールがこの街を飲み込むぞォ!!」
ときの声が挙がる。
「育殻組のヴォレル、シミック連合。」
「テイサ・カルロフ。オルゾフ・シンジケートの大特使を務めていますわ。」
「イクサーーーーヴァ!我が輝かしい教団がこの身を捧げるは、悪魔の王・ラクドォーーーーース!」
ラクドスの戦士が様々な形の刃や棘付きの棍棒を空に掲げて歓声を上げた。
ミルコ・ヴォスクがステージに飛んできて何かを囁いた。
「何だって?」
ラルが聞き返した。
「ミルコ・ヴォスク。」
辛うじて聴こえる声でヴォスクが言った。
「ギルドは?」
「ディミーア家。」
ラルが頷いた。
「セレズニアの代表者はいないか?」
ラルが周囲を見回した。
「セレズニア?」
「あんな植物愛好者どもは抜きにして始めないか?」
タジークが鼻を鳴らすと、同意の声が出てきた。
「そうしてやりたいのだが、セレズニアがいないと始まらないのだ。」
ザレックが答える。
「私はここです。」
声がした。人混みが二つに分かれて、イマーラが姿を現した。
イマーラの様子がおかしかった。彼女の外見は何も代わりが無い。しかし、イマーラの他に誰もいないのだ。エルフの狼乗りも、議事会の僧侶や樹彫師も、カロミアもいない。イマーラは一人だった。共同体の価値を重んじるギルドとしては異常だ。
「イマーラ・タンドリス。セレズニア議事会を代表します。」
「よろしい。」
ジェイスは身を隠したままイマーラの精神を探り、イマーラの表層思考や感情に触れて安心した。しかし、これがラザーヴの変身した偽者ではないと確証出来ない。
(君が来てくれて良かったよ。)
ジェイスはイマーラの精神に語りかけた。
イマーラはザレックの方を見たまま言葉を返した。
(ジェイス!どこにいるの!?)
(僕はここだ、遊歩道にいるよ。探さないで。でも君と一緒だ。)
(カロミアの事は・・・あなたが正しかったわ。カロミアを殺した化け物はどこかに居るけど、なんとかここまで辿り着いたわ。)
(議事会はあまり助けてくれなかったようだね。)
(私の事は厄介払いなのでしょう。街中を走っていたほうが議事会に居るよりも面倒を起こさないと思っているのよ。)
(彼らは君の事をよく分かっていないね。)
イマーラから微かな笑顔が見えた。
ラル・ザレックの横に居たエレメンタルのような存在が、体内でエネルギーを渦巻かせて一歩進んだ。僅かなお辞儀をして機械的な声であいさつをした。
「ソシテ、私はメーレク・・・私ハ迷路を走りマス・・・代表するギルドは・・・」
ザレックがそれを遮った。
「そして、私はラル・ザレック。」
ザレックはメーレクの背中に腕のガントレットを叩き付けた。メーレクの体から電気が吸い込まれる。メーレクの氷の体から火花が吸いだされ、骸骨のような氷の体だけが残された。そして、イゼットの迷路走者だった者はステージに崩れ落ちた。
「俺はラル・ザレック。そして俺がイゼットを代表する。」
「ここに、十人の代表者が揃った。ラヴニカの全てが、このギルドに選ばれた勇者を注目しているだろう。そして歴史上の全てがこの日を振り返ることになる。では、ルールをよく聞くが良い。」
ザレックが言うと、荒っぽいギルドから文句の声が聞こえた。ザレックはガントレットを高く掲げた。
ザレックはあらゆる方向に稲妻を放射し、近くにいる代表団の兵士を気絶させる。そしてステージが崩壊し、中から小さな狐の形をした稲妻のエレメンタルが飛び出し、手当たり次第に人に噛み付いた。
「ルールは、無い。」
混乱。全ギルドが暴徒と化し、右往左往しながらもそれぞれ動き始めた。
イマーラはザレックの近くで稲妻を受け、ただ自分の両手を見つめながら震えていた。ジェイスは飛び出して、イマーラを混乱の中から運び出した。
「さあ行こう、僕の迷路走者だ。脚を動かせるか、一歩ずつ。」
ジェイスはザレックの方を見た。ザレックとそのチームはいなくなっていた。アゾールの試練が始まったのだ。
ミルコ・ヴォスクと目が合ったが、ヴォスクは闇の中に消えた。
他のそれぞれのギルドも散らばって、各々が違う門に向かっていった。いくつかのギルドはイマーラが来た方向に向かっている。それぞれが持てる知識で、あるいは全くのランダムで門をくぐろうとしている。
イマーラが瞬きしてジェイスを見た。ジェイスが彼女を支えているのに気付いた。
「始まったのね。」
ジェイスは少しでも自身があるように見せて言った。
「ああ。君が勝つよ。」
「私は自信が無いの。エレメンタルの大軍で守りながら街を突き進むつもりだったのに・・・」
「それは良い考えだ。」
「でも、出来ないの・・・あの力はトロスターニに破棄されてしまった。借り物だったの。」
ジェイスはイマーラの背中を支えながら言った。
「大丈夫だ。僕達はやれる。ルートも分かっているだろう。君は最初の部分を知っている。」
「・・・セレズニアのギルド門へ。」
「ああ。簡単だよ。」
「また彼らに会わないといけないのね・・・トロスターニ、他のギルド。」
「他に出来ることがあるか?」
イマーラは肩を張って言った。
「そうね。グリフィンでも雇う?」
ジェイスはまだ遊歩道でうろついているチームを見た。ゴルガリが昆虫に乗ろうとしている。昆虫はその体の横の長さよりも非常に高く、一部の建物よりも高いくらいだ。数人のエルフが背中に取り付けられたサドルに乗る。トロールのヴァロルズがその生物の前をセレズニア区画に向かって走り出した。
「もっといい考えがあるよ。」
ジェイスが言った。
6章 CRASHING THE GATES (ギルド門への突入)
イマーラがジェイスの精神に話しかけた。
(確かにこれなら目立たないけど・・・。)
(その通り。快適さは二の次だよ。)
ゴルガリの長脚の腹で、昆虫に取り付けられたサドルを支えるベルトにジェイスとイマーラは掴まってぶら下がっていた。ジェイスは上下逆さまになって街を見渡す。イマーラは目を閉じていた。
(二の次ですって?間違いなく最後でしょう・・・。)
(大丈夫か?しっかり掴まっている?)
(頭の中に話しかけるのは止めて。後であなたをどうやって殺すか考えているのよ。)
ジェイスはゴルガリの昆虫に掴まりながら、前を先導して走るヴァロルズの背中を見た。振り返ってこちらを見ないように祈りながら。
ゴルガリの昆虫は目的地、セレズニアのギルド門に辿り着いた。柔らかな蔦が這う巨大な大理石の門は大型のエレメンタルが通れるように高く作られており、ゴルガリの巨大な昆虫でも通ることが出来た。しかし、セレズニアの領域に入ると、門の上から兵士が矢を放った。
ゴルガリの巨大昆虫が倒れ、ジェイス、イマーラ、ゴルガリのエルフが投げ出された。矢を撃った襲撃者はセレズニアの服装ではない。シミックの奇襲だったのだ。
ジェイスが見ると、倒れたイマーラは、シミックの迷路走者を見上げていた。
「エルフ・・・」
ヴォレルがイマーラを見下ろして言った。
「古の種族。改良されず。進化していない。すぐに時代遅れの種族になる・・・」
ヴォレルの使い魔、巨大なカニのような生物がイマーラをハサミで地面に釘付けにしていた。
「彼女を放せ。」
ジェイスが呪文を構えて警告すると、ヴォレルがジェイスの方を見た。
「人間。改良されず。未知の潜在能力あり・・・。」
周囲にはセレズニアの兵士はいない。イマーラを見捨てたのだ。門を守ることすらしない、それほどに迷路に関心が無いのか。
シミックの迷路走者ヴォレルはイマーラの前にしゃがみ、見慣れぬ昆虫を観察するように頭を傾けた。
「お前の生命はシミックが描く未来に適合しない。」
ヴォレルはカニのハサミをイマーラの胸に押し当てる。
その時、セレズニアの兵士が現れヴォレルと彼の巨大なカニを包囲した。
「彼女を解放しろ。」
兵の一人が言った。ヴォレルは自分に向けられた剣とイマーラを見比べると、カニのような生物を連れて立ち去った。
イマーラは息を吐き、周りの兵士達に言った。
「有難う。助かりました。」
「イマーラ、すまない。」
ジェイスが言った。
「何のこと?」
ジェイスは呪文を解いた。セレズニアの兵士が蒼色の光になって消え去った。イマーラは失望してため息をついた。
「幻だったのね。」
「シミックをやり過ごすのにこれしか考え付かなかった。」
ジェイスが答える。
「一瞬、あなたがセレズニア議事会全員の心を入れ替えたのかと思ったわ。」
「それも考えたけどね・・・」
イマーラはローブから埃を落とし、ジェイスの方を見た。
「ジェイス・・・貴方はどんな気分で過ごしているの?貴方の能力を使うというのは?あなたの限界は何?」
ジェイスはフードが落ちるに任せた。
「誰も知ることはできない。」
ジェイスは迷路の方に振り返った。イマーラがジェイスの全てを知れば、二度とジェイスを信じる事は無いだろう。
「どういう意味?何か隠しているの?・・・ジェイス・ベレレンの秘密は何なの?」
「行こう。ゴルガリが待っている。」
◆
ジェイスはこの場所を以前訪れていた。ヴァロルズの住処、あるいは狩場だ。その先にあるゴルガリの門に辿り着くには、長い腐食した橋を渡らなければならない。
橋の下は何百フィートかそれ以上、粘液が川のように滴り流れている石の床だった。
すぐ前にシミックのチームがあり、そのさらに前には、タジークとボロス軍の兵士達がいた。彼らの前にはトロールのヴァロルズが立ちはだかっていた。
ボロスの僧侶が祈りを捧げると、天井が崩れて光がヴァロルズめがけて差し込んだ。ヴァロルズの体が発火し、巨大な体が倒れた。
タジークの合図でボロス軍のチームはヴァロルズを通り過ぎ、門を抜けてトンネルに消えた。光が消えて、ヴァロルズの燃える体が残された。シミックも後に続いて通り過ぎようとした。
「急げ!門をくぐれ!」
ヴォレルが指示を飛ばすが、ヴァロルズは起き上がって棍棒を振り回した。シミック兵の一人が棍棒で吹き飛ばされて橋から落下して、骨溜めの中を跳ねた。カブトムシのような巨大な昆虫がその死体に近づいて飲み込んだ。
ヴォレルがトロールと戦っていた。ヴォレルが呪文を唱えようとする間にヴァロルズの拳がヴォレルをとらえ、橋の縁に叩き付けた。ヴォレルはバランスを崩して橋から落下するが、辛うじて片手で橋に掴まっていた。
ジェイスは身を乗り出してヴォレルの腕を掴む。そして先ほどイマーラを殺しかけた男を引き上げた。
「有難う。あのトロールを甘く見ていた。」
ヴォレルが言った。
「僕も前に同じ間違いをした。」
ジェイスが答えた。
「手を組んであのトロールを突破する?それとも、時代遅れの種族とは手を組めないのかしら?」
イマーラが聞いた。ヴォレルは彼らのほうに歩み寄った。他のシミックの魔道士は指示を求めて見ている。
「君は何の魔法を使える?」
ジェイスが聞いた。
「私は生術士だ。生物の専門家だ。」
「彼を止められるか?」
「生物を傷つける呪文は使えない。」
「それはあなたのペットにやらせればいいのよ。」
イマーラが言った。
「そうだ。どれくらい早く召喚できる?」
「何を召喚する?」
ジェイスはトロールの巨体を見た。
「何かでっかくて、腹を空かせたやつだ。」
ヴォレルはトロールの方を向き、両手から海のような青色の光を呼び出した。その光の海は徐々に大きくなっていき、突風と水しぶきの中から触手と甲羅の怪物が姿を現した。リヴァイアサンはヴァロルズの方を見て触手を伸ばし、持ち上げた。
ヴァロルズの唸り声を背に、ジェイス、イマーラ、ヴォレルとシミックの代表団はゴルガリのギルド門をくぐりぬけた。
7章 THE STING OF JUSTICE (正義の一刺し)
アゾリウス兵がギルド門を塞ぎ、ジェイス、イマーラ、ヴォレル率いるシミック連合の進路を塞いでいた。ジェイスが進もうとすると、アゾリウスの兵達は一斉に剣を向けた。
ラヴィニアが階段を下りてくる。その後にはカヴィン・・・あるいはカヴィンに化けたラザーヴ・・・が続いていた。カヴィンは微かに微笑んでいた。感情の薄いカヴィンからは見られなかった表情だ。ジェイスは、カヴィンはおそらく死んだのだろうと悟った。
「元気そうじゃないか、カヴィン。実際、前に会ったときよりもずっと。」
「この期に及んでまだギルドのやることに関わっているのですか。嘘を振りまいてギルドの競争に干渉し・・・」
ジェイスは自分に向けられた剣をどけでラヴィニアに言った。
「ここを通してくれそうにはないよね。」
カヴィンがラヴィニアの耳元に何かを囁き、ラヴィニアが言った。
「迷路走者は通って結構です。ベレレンと他の者は残りなさい。」
抗議を上げたのはヴォレルだ。
「私は一人ではここを通らんぞ。古臭い法律の信者などに我々は止められない。」
ラヴィニアは法魔術を放った。まばゆい光がラヴィニアの手から飛び出し、ジェイスの視界が直るとヴォレルの兵士達がアゾリウスのルーン文字に拘束されていた。
「彼らを放せ!」
ヴォレルが叫んだ。
「彼らはアゾリウスの正式な手続きを受けていませんので。あなたとエルフは私に同行して門を通過できます。」
「何が目的だ?」
ジェイスはカヴィンの姿をした者に聞いたつもりだったが、代わりにラヴィニアが答えた。
「私は今、“暗黙の迷路”がギルドの協調性を試していると理解しています。ギルドの統合の試練です。迷路走者は創設者の望むように傷付くことなく迷路を進まなければなりません。それが我々全員にとって本当の勝利への道。そうでなければ破滅が訪れるのです。」
「“彼”がそれを教えたのか!?」
ジェイスがヴィダルケンの男にあごを向けて言った。
「貴方が記憶を侵すという犯罪的行為を受けたとしても、カヴィンは貴方が思うよりはるかに迷路の事を知っていました。」
「カヴィンは、死んだ。」
ジェイスが言った。イマーラがジェイスの方を見て、そしてシェイプシフターの方を睨みつけた。
「あなたの嘘は苦し紛れに聴こえますよ、ベレレン。今こそ、あなたを我が管区から排除するときです。」
ジェイスは即座に対抗呪文を構えたが、その力が抑え込まれているのを感じた。アゾリウスの衛兵か、門から彼を見下ろすアゾリウスのシンボルの力だろうか。
「この言葉を言える時を待っていました。」
ラヴィニアはジェイスの両腕に手錠のような光の輪を召喚した。
「ジェイス・ベレレン、アゾリウス評議会の名の下に、あなたを逮捕します。」
「間違っているわ!ジェイスは必要です!」
イマーラが言った。
「イマーラ、行け!ヴォレルを連れて他の迷路走者に追い上げるんだ。すぐに追いつくから!」
カヴィンがジェイスを連行するために肩を掴んだ。
◆
ラル・ザレックは自ら作り出した雷雲の精霊に乗っていた。彼はオルゾフの衛兵を稲妻で薙ぎ払い、その爆発はオルゾフの僧侶や貴族が描かれたステンドグラスの肖像画を破壊した。他のイゼットの魔道士は後に続いて走っていた。ラル以上に迷路を知り尽くした者はいない。たとえあのくだらないメーレクであっても。
オルゾフの僧侶が灰色のインプのようなスラルを召喚して妨害していた。ラルは執拗な妨害にうんざりしていたが、迷路の知識を最も多く持つゆえの代償だった。これが先頭に立つ者の、プレインズウォーカーであることの代償だと思った。他のギルドは後を追って、自分たちで道を調べようとせずに先頭を引き摺り下ろそうとしている。
ラルの思惑通りであれば、他のギルドがそもそも関わることすらなかった。ニヴ・ミゼットが出した推論では、全てのギルドが参加しなければ迷路の恩恵は得られないということだ。その情報の一部は門無しの魔道士、ベレレンによるものだ。もしも今ベレレンを見たら、その借りを返すつもりだ。ニヴ・ミゼットはラルが大切なメーレクに成り代わったことを快く思わないだろうが、ラルは自分の力を証明すればいい。多くの連中に、彼らが間違っていると証明するのは面倒だった。
ラルはオルゾフの門を突破してシミックの門に向かった。振り返ってスクリーグや他のイゼットの魔道士がついていているかを確認もしなかった。こいつらには、プレインズウォーカーであるとはどういう事か分からない。
◆
ラヴィニアに捕らえられたジェイスは法廷に連れて行かれた。中心にはスフィンクス、イスペリアがいる。そしてカヴィンの姿をしたラザーヴが一緒にいた。
「止めるんだ。頼むラヴィニア。自分で言っただろう。競争が成功しなければ、地区の全てが危険にさらされるんだ。」
「ついに正義が執行されます!」
ラヴィニアが宣言した。
「法の執行を。この法廷はあなたのために特別に設立されたのです。」
イスペリアの表情からは何も読めない。精神を深く読み取らない限り、何か感情があったしても分からないだろう。
「正当な判決無くして容疑者は釈放しない。」
スフィンクスが言った。
「僕を自由にしてくれ。破滅を食い止めるために。」
「我々が止めます。我々がこの魔法を解除できます。」
ラヴィニアが言った。ジェイスは、カヴィンがイスペリアを見るのを捉えた。
「いや、それはしない。」
イスペリアが言った。
「この迷路はアゾールによって作られたもの。アゾールは私よりも以前から法の化身であったのだ。ゆえに彼の作った法を撤回する事は出来ない。」
それにラヴィニアが反論する。
「ですが、街が破壊されます。ギルドが協力できると証明できなければ、“至高の評決”が発動してしまいます。」
「アゾールの知恵は論理に基づいている。ギルドはお互いに怒りを向ける一方。我々はギルドパクトの導きが無ければそれぞれの違いを乗り越えることが出来なかった。評決は正義にかなっているやも知れぬ。」
「緊急措置を議会に送りましょう。評決を差し止めるべきです。」
「そのような事はしない。我々はアゾールがギルドを設立した真実の意思を受け継ぐのだ。それは、この暗黙の迷路を執り行うことに他ならぬ。迷路が伝える事を、迷路を創った者の意思を受け継ぐことだ。それは評決を執り行う事でもある。」
「我々はみな死んでしまいます。」
ラヴィニアが肩を僅かに落として言った。
カヴィンは笑っていなかった。ジェイスにはこのシェイプシフターの思考を読めなかったが、大勢の命が失われるという発言に対し僅かに顔を傾けた仕草から、これもラザーヴの計画の一部だという意味であるように思えた。
「判決を言ってくれ。」
その場にいた全員がジェイスを見た。
「裁判を始めて、判決を出せ。有罪でもいい。必要な事を全部済ませろ。そして執行猶予を付けてここから出してくれ。僕に大勢の人が死ぬのを止めさせてくれ。」
「とんでもない。」
ラヴィニアが言った。
「不可能だ。」
カヴィンが言った。
「興味深い。」
スフィンクスが言った。
ラヴィニアとカヴィンがショックを受けたようにイスペリアの方を見る。ジェイスは、外に出られる一抹の希望を感じた。少しでも時間を浪費しないことをただ祈っていた。
(後編へ続く)
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