【映画】『21世紀の資本』ーー文系でも分かる、格差はなぜ拡大するのか
【映画】『21世紀の資本』ーー文系でも分かる、格差はなぜ拡大するのか
【映画】『21世紀の資本』ーー文系でも分かる、格差はなぜ拡大するのか
世界中に衝撃をもたらしたフランスの経済学者トマ・ピケティの著作がまさかの映画化。元々興味あったけど書籍の膨大さから躊躇していたので観に行きました。

おそらくほとんどの人はそもそも観ることが出来ない(限られたミニシアターでしか上映されないB級映画扱いのため)と思うので限りなくネタバレに近いレビュー。

長い文章になります。面倒な人はスクロールして一番太い所だけ読んでください。

ピケティ本人と彼に賛同する世界中の経済学者たちが集結、懐かしい映画や古めかしいアニメのシーンを軽快に挟みながら自らの言葉で歴史と経済の結びつきを解説するドキュメンタリー映画。(その中には日系人のフランシス・フクヤマも登場。)

そう、この映画の9割は過去の歴史を紐解き、今も繰り返されようとている事を解説するために費やされている。

膨大な統計のグラフや複雑な数字のやり取りは徹底的に削除され、フランス革命から植民地、世界大戦、大恐慌、オイルショック、リーマンショックが起こる裏で経済や資本がどう関わり、格差とお金に対する世の中の考え方がどう変わって行ったかを丁寧に説明。

そして終盤に近付きそろそろ歴史の授業に飽きてきたところで、世界を揺るがした一つの数式をピケティは叩き付けます。

それがr>gの法則。r>gは直訳すると(資本収益率>経済成長率)。これだけじゃ分かり辛いでしょう。俺も分からんので...

説明しよう!!

あなたがどれだけ努力しても、どれだけ経済が成長しても、格差は絶対に拡大する!

なぜなら資本主義である限り、経済が成長する以上におちんぎんは伸びない!

だが金持ちは資産を株や不動産などの投資で転がせば、経済が成長する以上の利益を生み出せるからだ!!


『21世紀の資本』が言いたい事はほぼこの太字に集約される。

この事を原著では長年の研究とデータに基づき実証してみせ、「貧困は努力不足の自己責任」やら「経済を成長させたら税収も入って格差は無くせる」といった、まあこのブログや俺シグマの過去のコンテンツを見て噛みつきたくなる輩が大好きな定説をひっくり返した。

それでも納得いかない人もいるだろう。普通に生活できてる人もいればホームレスや非正規もいるからだ。やっぱり自己責任じゃないか。しかしそれは心理学的なバイアスに過ぎない。

あるゲームの実験が登場する。最初にコイントスを行い勝者を「金持ち」として全てのボーナスが「貧乏人」の2倍与えられる。この状態でゲーム(多分モノポリー)をやる。
当然差が付くが、金持ちのプレイヤーの態度は段々横柄になり、駒を乱暴に叩き付け、相手を見下すようになる。そしてゲームが終わって勝因を聞くと全員が「
自分の実力」と答えた。最初にコイントスで勝って有利な条件でやっただけなのに。
これは被験者が貧乏人でも例外ではない。自分より困窮した人がいると誰もがそれを能力の差だと錯覚するのである。

脱線したが、ピケティによると実はr>gの法則自体は問題じゃない。確かに格差を作る圧力の源ではあるが、本当に問題なのは、富が公正に分配されてない事である。具体的にはオイルショック後に新自由主義が世界を支配してから、労働分配率が下がり続けている

経済と資本は成長し企業と株主は儲けるが、物価を反映した購買力を表す実質賃金は1970年代からまるで成長していない。それどころか投機による住宅価格の上昇でがホームレスになり、学生ローンや医療の支払いで苦労する人が増えている。日本でも若者はスマホへの支払いと非正規雇用が増える一方で、酒を飲まない車を買わない等トータルの消費額は伸びていない。

このまま放置すればいずれ社会不安で国家や民主主義そのものが危機を迎えることは過去の歴史が証明している。終わりの見えない貧困こそがフランス革命を起こし、ナチスと第二次世界大戦を招き、共産主義に資本主義が論破されかけたのだ。また第一次世界大戦やリーマンショックはより多くの富を得ようとする資本の暴走が引き起こしたと説明されています。それらの結果多くの命が、さらに富や資本が失われる

だからピケティは私有財産制に制限を付けて、過度の格差は抑制するべきだと主張、そのための政策をいくつか提言しています。

まずGAFA等のタックスヘイヴンを駆使して税逃れをしているグローバル企業に適切に課税する事。それは難しくない。
タックスヘイヴンを提供して企業情報を隠している国に制裁を課すことが出来る。
さらにダミー企業をいくら挟んでも売り上げの出どころから課税額を特定し、例えば収益の10%がフランスからならフランス政府は10%分の法人税を主張できる。企業はタックスヘイヴンに隠れても、お客様は隠せない

より重要なのが富裕層から相続税を取り、さらに累進的な資産課税を組み合わせること。これによって過剰な不平等を抑えるとともに実体経済への投資を促すのだ。

いわゆる富裕税とまで聞くと社会主義や共産主義を疑う人が出て来ると思うが、ピケティは共産主義ではない。映画の冒頭で共産主義の崩壊を目の当たりにしたことを語り、共産主義が欺瞞であるとはっきり断じている。

むしろ、大恐慌から立ち上がったアメリカや、共産主義を打倒した西側諸国が出来た事をもう一度やるように言っている。ある程度労働者に妥協して破綻を防止し、資本主義をアップデートすれば十分なのだ。

しかし、それを成し遂げるためには資本によって握られ未だ自己責任論に支配された政治的な力を変える必要があり、ピケティもそこは意識しているようだが原因や対策は提示できていない。


フランス革命前の18世紀は1%の貴族が婚姻と相続を通じて何もかも独占し、多くの人は貧困状態であり勉強や努力で変わることは不可能、そして貧困=死であり平均寿命は17歳だった。世界はその時代に向かって逆戻りしている。

それでも良いのか?それとも資本主義を乗り越えて今よりもいくらか平等で、持続可能な資本主義に変えるのか?ピケティは後者を支持すると宣言した。この文章を書いているシグマも同じです。

画像1は公式サイト
https://21shihonn.com/
画像2はここ
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2012_12/ilo_01.html
画像3はニコニコ静画から引用
https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im2536073

コメント

M中
2020年3月23日22:16

 公式見る感じ、マイケルムーア的なモンタージュ+誇張のドキュメンタリーですかね?
 こういう手法はプロパガンダだと批判されるけど、毒にもならないよりは遥かに良いとは思います。

シグマ@dj-SIGMA
2020年3月24日0:46

>M中さん
実はマイケルムーアのドキュメンタリーを見た記憶が無いんですが、多分方向性はドキュメンタリーという事で近いと思います。ただし、自分は格差を実感した身であり、この映画に関してはプロパガンダでも誇張でもなく全て真実だと確信しています。

スミぱん@国会を見よう
2020年3月24日6:03

ウチの住んでいるところでは5月にミニシアターでやるみたいなんで、
ちょっと遠出になりますが、観にいく予定です。

格差の広がりの極めつけが「ジョーカー」だと思うんですが。

Hotmilk
2020年3月24日6:48

んほぉぉぉぉ!!!!
らめぇ、そんないっぱい(口座に)入らないよぉぉぉぉ!!!!

ハリー
2020年3月24日9:33

ちょうどタイムリーな記事読んでました
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00067/?P=5

まあ格差が広がりまくってるというのと、そういう仕組みになっているというのはその通りだと思います
これまで法律を作ってきた人間が自分達に有利になるように作ってきたので
当然そうなります

シグマ@dj-SIGMA
2020年3月24日20:20

>スミぱんさん
格差を一個人の視点から描いたのがジョーカーであり、それを世界レベルの仕組みからマクロ的に説明したのが21世紀の資本です。こういった映画が今も作られて評価されてるのを見る限り、少なくとも映画界は他よりかなり良心を持っているみたいですね。
>Hotmilkさん
そんないっぱい入らないよぉぉぉぉ(入るお金が無いから)
>ハリーさん
この話題になると何が何でも現状だけ説明して冷笑しようとするハリーさんですけど、その法律を作る人を選ぶのは有権者で、歴史的に格差や貧困への危機感が国全体に広がっていた時は、それ相応の政策がちゃんと票を得ていたんですよ。
今は格差と言っても一部の若者と氷河期世代が割を食ってるだけだから問題に上がっていないのです。これが老若関係なく自分よりヤバい人が見当たらないくらい貧困になるようなら、政治のトレンドも変わります。

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